方 法抗微生物薬の非経口投与が便中の短鎖脂肪酸および胆汁酸に及ぼす影響限らず、全身性の有害反応の発症に影響を及ぼす可能性が示唆される。したがって、重症患者における腸内代謝物量に影響を与える因子を解明することが重要と考えられる。 腸内細菌叢およびその代謝物は、薬物や食事など、さまざまな外的要因の影響を受けることが知られている。特に、抗微生物薬やプロトンポンプ阻害薬は腸内細菌叢に対して強い影響を及ぼすことが広く知られている5)。造血幹細胞移植後に抗微生物薬が投与された患者では、便中の酪酸およびプロピオン酸量が低下することが観察されている6)。広域な抗菌スペクトルを有する抗微生物薬が経口投与された場合、それらは直接的に腸内細菌に作用し、腸内代謝物に大きな影響を及ぼすと考えられる7)。一方で、抗微生物薬の腸内代謝物に対する影響は、その投与経路によって異なる可能性がある8,9)。非経口投与された抗微生物薬は、胆汁中に排泄され未変化体として腸に到達する場合に、腸内細菌叢および代謝物に影響を与えると考えられるため、経口投与した場合と影響の度合いが異なることが予想される。感染症や全身状態が悪化した患者には抗微生物薬が非経口投与されることが多いが、その際に腸内代謝物に及ぼす影響は不明である。また、抗微生物薬の種類によっても腸内細菌叢やその代謝物に及ぼす影響が異なる可能性が示唆されているが10,11)、この点に関する検証は十分に行われていない。 以上の背景を踏まえ本研究では、京都大学医学部附属病院初期医療・救急科に入院した患者を対象に、抗微生物薬の非経口投与が便中代謝物に及ぼす影響を検討した。抗微生物薬が投与された患者と投与されなかった患者における便中代謝物の変化を比較し、さらに動物モデルを用いた検証を行った。臨床研究 対象患者 本研究では、京都大学医学部附属病院の初期医療・救急科を受診後に入院し、便検体が2回採取された患者を、抗微生物薬の投与有無に関わらず、対象とした。除外基準は設定しなかった。最初の便採取は入院当日または翌日に行った。本研究は、京都大学大学院医学研究科・医学部および医学部附属病院 医の倫理委員会で審査され、承認を受けた上で実施した(承認番号 R3390)。 便中代謝物量の定量 本研究の主要評価項目は、便中の代謝物量とし、測定対象は酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、コール酸、タウロコール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸、および、ウルソデオキシコール酸の 17種類の代謝物とした。便に含まれるこれら代謝物は既報にしたがって定量した11)。採取した便を秤量後、アセトニトリル中で超音波処理により破砕した。遠心後に得られた上清を回収し、測定日まで-80 ℃にて保管した。酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、乳酸、コハク酸、ピルビン酸、フマル酸、および、リンゴ酸の測定にあたっては、破砕した便検体に安息香酸(内部標準)を含む蒸留水を添加した後、3-nitrophenylhydrazineおよびN-(3-Dimethylaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide を加え、40 ℃で30分間反応させた。その後、反応液を10%アセトニトリル水溶液で希釈し、液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて分析を行った。コール酸、タウロコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、および、ケノデオキシコール酸の測定にあたっては、破砕した便検体をアセトニトリルで希釈し、液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて分析を行った。また、それぞれの代謝物について10 mM〜1.37 µMの範囲で検量線を作成し、便中含有量を推定した。 抗微生物薬の曝露の定義 対象患者について、入院時から2回目の便採取までの期間に使用された抗微生物薬を調査した。81
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