考 察追 記整腸剤および発酵食品由来細菌が医薬品の PK/PD に与える影響についての検討(図5)。した際の血中濃度が低い傾向は見られたものの、統計学的有意差は得られなかった。タクロリムス、バラシクロビルについては整腸剤と併用しても非併用時と血中濃度に特に変化は認められなかった 本研究ではin vitroにおいてB. subtilisがタクロリムス、バラシクロビルと薬物Xに対して代謝活性を示した。これらの代謝産物を探索した結果、バラシクロビルはアシクロビルへと変換されていることが明らかとなった。バラシクロビルは消化管での吸収改善を目的としてバリンを付加したアシクロビルのプロドラッグであり、ヒトでは吸収されると加水分解され、アシクロビルとバリンになる。In vitro実験でも同様の事象が観察されたことから、仮に同様の代謝が生体内でも起こると仮定すると、B. subtilisを含有する整腸剤や発酵食品と同時にバラシクロビルを服用すると吸収前にバラシクロビルの加水分解が起こり、消化管での吸収が低下することが予測された。そこでマウスならびに健康成人で確認をしたところ、B. subtilisの併用の有無でバラシクロビル血中濃度における変化は見られなかった。この要因の一つとして、接触時間の短さが考えられる。バラシクロビルのマウスにおけるTmaxは約15分、健康成人で約45分と言われており8)、吸収はそれよりも早く行われると予測される。バラシクロビルとB. subtilisを経口投与した時の両者の接触時間が短く、影響が出るほどの接触がなかったと考えられる。また、タクロリムス、薬物XについてはマウスではB. subtilisの併用によって血中濃度に変化が見られたものの、健康成人では認められなかった。これらは菌数の違いも要因の一つと考えられる。In vitro実験では培養液中の代謝活性を評価しており、最終的な菌数は約109/mLであった。また、マウス実験ではマウス1匹あたり約108のB. subtilisを投与した。一方で、健康成人における検証で用いた整腸剤には1回用量あたり約5×107のB. subtilisが含まれて いるが、in vitroやマウス実験と比べて単位容積あたりの菌数が少なく、十分な代謝が行えなかった可能性がある。これらのことから整腸剤に含まれるB. subtilisはタクロリムス、バラシクロビル、薬物Xを代謝するのに十分な菌数ではないため、整腸剤についてはこれらの薬物と同時に内服してもその薬物動態に与える影響はほとんどないと考えられる。一方で、例えば納豆は整腸剤よりも大量のB. subtilisを含んでいるとされ(1食分あたり約1×1013)10)、今回代謝活性が見られたタクロリムスやバラシクロビルのような薬物と同時に摂取すると場合によってはB. subtilisによる代謝が起こる可能性が考えられた。 また、本研究ではB. subtilisの薬物代謝に関与する候補因子タンパクYを同定した。今後タンパクYと各種薬物を反応させ、得られた産物を分析する予定である。さらに代謝後産物の構造から考えられる有害反応などの不利益の可能性についての検討を進めていく。 本研究による医薬品−微生物間相互作用の包括的理解が進めば、これまで併用する際に注意を向けられることが少なかった整腸剤や発酵食品を考慮に入れた処方設計や服薬指導が可能になると考えられる。さらにタンパクYにより代謝を受ける医薬品やその構造を明らかにすることで、細菌による代謝の阻害薬や代謝を受けないプロドラッグの開発につながることも期待される。また、タンパクYや同様のタンパクを産生する細菌が腸内細菌叢に含有されているか調べることで医薬品の薬物動態の個人差を推定できることも考えられ、本研究は基礎研究から臨床、さらには一般消費者においても有益な情報をもたらすことが期待される。 論文投稿・査読中のため、一部薬物ならびにタンパクについて本文では図を含め詳細を割愛させて頂いた。77
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