In vitroで医薬品の培地中濃度減少が認められた方 法機会が多く、仮に積極的な摂取により不利益をもたらすことがあればその影響は大きなものになると考えられる。そこで我々は薬物に対する代謝活性を調べるため、整腸剤から6種類、発酵食品から7種類の細菌を分離し、分離培養したものを細菌ストックとした。これらは前述の主要なプロバイオティクスとして用いられる機会の多い細菌を網羅している。医薬品としては外部から摂取した細菌との接触がある経口内服薬のうち、投与量の管理が難しく、血中濃度の変化が治療効果に大きく影響する薬物9種類を対象とした。各薬物を添加した培地にこれらの細菌を接種し、24時間培養を行った後に薬物濃度を測定した。用いた培養液中の最終的な菌数は約109/mLであった。培養前の薬物濃度を100%として、薬物の残存率を算出した。薬物濃度については既報7)のとおりに液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いて測定した。細菌中の代謝関連分子の同定 代謝活性が認められた細菌について、薬物代謝に関わる細菌因子を同定するために、ソニケーターを用いて細菌を4つの画分に分け、それぞれの代謝能について検討した。薬物については代謝能スクリーニングで最も減少が見られたタクロリムスとバラシクロビルを対象とした。最も薬物の減少が見られた画分に含まれる因子について、トランスポゾンを用いた遺伝子変異株ライブラリを作成し、代謝活性を喪失した変異株を薬物分解性を指標にLC-MS/MSを用いて抽出した。マウスでの検証組み合わせ(B. subtilisとタクロリムス、バラシクロビルならびに薬物X)について、Jcl:ICRマウスにおける薬物動態の変化を検証した。整腸剤より分離したB. subtilis TO-Aの菌液ストックを24時間前培養して調製した細菌懸濁液(菌投与群)もしくは12.5%グリセロール溶液(菌非投与群)を経胃投与し、その30分後に薬物を経口にて追加投与72および発酵食品には数億を超える細菌が含まれており、これらを医薬品と同時に摂取した場合、その代謝活性が及ぼす影響は無視できない可能性がある。外部から摂取した整腸剤および発酵食品に由来する細菌が生体内で代謝活性を示すかどうかについては明らかでないが、多くの整腸剤および発酵食品には数億を超える細菌が含まれている上、その約8%が回腸付近でも生残するとされている6)。このことから整腸剤および発酵食品に由来する細菌は医薬品の体内動態に強く影響するものと推測される。 仮に整腸剤や発酵食品由来の細菌に医薬品を代謝する性質が備わっていた場合、その摂取は医薬品による治療効果を低下させるばかりか、場合によっては副作用の頻度を上昇させる恐れがある。このような不利益を回避するには医薬品−微生物相互作用の体系的な理解とそれに基づく処方設計や服薬指導が重要となると考えられる。そこで本研究では整腸剤や発酵食品由来の細菌が医薬品を代謝するかどうかについて、特に血中濃度管理に慎重を要する治療薬物濃度モニタリング(TDM)対象薬を含めた in vitro / in vivoベースで解析を行った。さらに代謝後産物の活性や構造を解析することで、プロドラッグ化による構造の保護が可能かどうか、どのような副作用が生じるか、また、その他の医薬品が代謝を受ける可能性があるのかについても随時検討を拡大していく。これら一連の解析を通して、外部から摂取した細菌の薬物動態への影響とその対応策に関する基盤的情報の取得を目指すべく、その手始めとして本研究を計画した。細菌の薬物代謝能スクリーニングならびに薬物濃度測定 整腸剤には主にBacillus sp.、Bifidobacterium sp.、Clostridium sp.、 Enterococcus sp.が、発酵乳製品には主にLactobacillus sp.、Bifidobacterium sp.が、納豆にはBacillus sp.が含まれている。これらの細菌は日常的にプロバイオティクスとして摂取される
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