臨床薬理の進歩 No.46
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結  論追  記謝  辞利益相反治療抵抗性統合失調症患者のクロザピン血中動態変動へのOATP1B1の影響(ネガティブコントロール:OAT阻害剤のPAH)の影響も評価した。その結果、OATP1B1の強力な阻害剤であるシクロスポリンAおよびリファンピシンは、OATP1B1を介したCLZ取り込みに対して弱い、もしくは中程度の阻害を示した(図4)。 最後に、CLZとOATPとの相互作用を詳細に調べるため、分子ドッキング計算を行った。ドッキングプログラムにより、外向き開口状態および内向き開口状態の両方で、可能性の高いCLZの結合ポーズを明らかにすることができた。本研究で特定した結合部位と他の基質の既知の結合部位は共通する部分があった。また、CLZとシクロスポリンAの予測結合構造は、OATP1B1の外向き開口状態および内向き開口状態のいずれにおいても重ならなかった(図5および未提示データ)。この結果は、シクロスポリンAがOATP1B1を介したCLZ取り込みに対して弱い阻害を示したことを説明する1つの根拠と考えられた(図4)。また、図5BおよびDに示したOATP1B1の4つの予測結合部位のアミノ酸(Y352、A355、F386、L545)は、OATP1B3およびOATP2B1の予測結合部位のアミノ酸と異なっていた(未提示データ)。OATP分子の結合部位のアミノ酸の違いが、OATPによるCLZ取り込みの有無を説明する可能性が考えられた(図2)。 本研究では、薬物動態関連因子(薬物代謝酵素およびトランスポーター)の主要なSNPとCLZ動態パラメーター変動の関係を調べた。本研究の結果より、肝臓に発現するOATPのSNPがCLZ動態パラメーターの変動に関与している可能性が示された。さらに、OATP安定発現細胞を用いた取り込み実験によって、CLZがOATP1B1の基質であることが直接示された。また、分子ドッキング計算の結果は取り込み実験の結果を支持するものであった。以上、本研究で初めて、CLZがOATP1B1の基質であることが示され、また、OATPのSNPの存在がCLZ動態パラメーターを変動させる可能性が示された。本研究成果は、臨床現場の医療従事者や創薬研究者にとって新たな知見を提供するものであると確信する。 本研究は、Int J Mol Sci誌 9)に発表しました。 本研究に助成金を賜わりました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に感謝の意を表します。 本研究は、以下の支援を受けて実施いたしました。• 令和3年度 東北大学病院 若手研究者による臨床応用研究推進プログラム(佐藤紀宏)• AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)-BINDS(生命科学・創薬研究支援基盤事業)(番号JP24ama121019)• Biological Structure Model Archive (BSM-Arc) under BSM-ID BSM00069. 69

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