臨床薬理の進歩 No.46
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変動する。また、OATP2B1*3(1457C>T (rs2306168; Ser486Phe))の変異は、OATP2B1の基質輸送を低下させる。 本研究の解析結果において、OATP1B1の*1a/*1a、*1a/*1b、*1b/*1b、*1b/*15、および*15/*15を有する患者は、それぞれ1、2、2、3、および2名であった。OATP1B3の334T>Gおよび699G>Aホモ接合型変異を有する患者は4名、ヘテロ接合型変異を有する患者は3名であった。特に、no.3、7、8は複数のSLCO2B1(OATP2B1)変異を有していた。OATP2B1の*3ホモ接合型、*3ヘテロ接合型、935G>Aホモ接合型、 935G>Aヘテロ接合型、601G>Aヘテロ接合型、および76_84del変異を有する患者は、それぞれ1、4、1、4、1、および1名であった。OATPsの遺伝子変異とCLZ動態パラメーター変動の関連については、サンプル数が少ないため多変量解析を行うことができなかったが、複数のOATPsの遺伝子変異を有する患者において、CLZおよび/またはnorCLZの血中濃度が上昇する傾向が見られた。他に、腎臓の薬物トランスポーターを解析したところ、OAT3の913A>Tヘテロ接合型変異はno.1のみで認められ、OATP4C1については全例がWTであった。したがって、OAT3およびOATP4C1の遺伝子変異はCLZ動態パラメーターの変動に影響しない可能性が示された。 薬物動態関連因子のSNP解析結果に基づき、CLZがOATP1B1、OATP1B3、およびOATP2B1の基質であるかどうかを、OATP安定発現HEK293細胞を用いたCLZ取り込み実験によって調べることとした。その結果、mock細胞に比べて、OATP1B1発現HEK293細胞においてCLZの取り込みが有意に上昇した。また、OATP1B1を介したCLZ取り込みの濃度依存性試験も行った。その結果、CLZの高濃度において取り込みは飽和し、ミカエリス・メンテン式に当てはめたところ、OATP1B1によるCLZ取り込みのKm値は38.9 μM、Vmax値は2752 pmol/mg protein/10 minと算出された。OATP1B1によるCLZ取り込みに対して、OATP阻害剤68観察されなかった。FMO3の769G>Aホモ接合型変異は1名の患者で認められ、472G>A、769G>A、923A>GといったFMO3のヘテロ接合型変異は3名の患者で認められた。FMO3の769G>A(Val257Met)を含むすべての変異型は、トリメチルアミンのN-酸素化に働くFMO3活性の低下に関与している。しかしながら、これらのSNPについても、CLZの血中濃度変動を説明することはできなかった。 同様に、薬物トランスポーターの主要なSNPを解析したところ、Pgpの2677G>T/Aホモ接合型変異は2名の患者に、ヘテロ接合型変異は7名の患者に認められた。また、BCRPの421C>Aホモ接合型変異は2名の患者に、ヘテロ接合型変異は3名の患者に認められた。これらの変異は、PgpおよびBCRPの発現や機能を低下させ、基質薬物の体内蓄積を引き起こすと考えられている。例えば、BCRP 421C>AはCLZのC/D比の高値に関与することが報告されている7)。本研究では、Pgp 2677G>T/AやBCRP 421C>A変異を有する患者に加え、これらのトランスポーターのヘテロ接合型変異やWTを有する患者においても、CLZの蓄積やnorCLZ/CLZ比の高値が認められた。したがって、これらのトランスポーターだけではCLZ動態パラメーターの変動を説明できないことが示された。 OATP1B1のアミノ酸置換を伴うSNPとして、OATP1B1*1b(388A>G(rs2306283; Asn130Asp))および*5(521T>C(rs4149056; Val174Ala))が挙げられる。これらのSNPの組み合わせによって形成される4つのハプロタイプとして、OATP1B1*1a(WT)、OATP1B1*1b、OATP1B1*5、およびOATP1B1*15(*1bと*5の両方)がある。OATP1B1*5変異を有する患者において、シンバスタチン誘発性ミオパチーのリスク上昇することが知られている。OATP1B3はミコフェノール酸グルクロン酸抱合体を基質とすることが知られているが、334T>Gおよび699G>A変異を有する安定した腎移植患者において、ミコフェノール酸(シクロスポリン非投与レジメン)の薬物動態が

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