考 察(Y352、A355、F386、L545)(図5B、5D)のアミノ酸 (トラフ値)が治療域(350−600 ng/mL)に収まって10名と少ないことから、CLZの血中濃度と有効性(norCLZ/CLZ比)を計算した。その結果、治療抵抗性統合失調症患者のクロザピン血中動態変動へのOATP1B1の影響は、OATP1B3およびOATP2B1の予測結合部位のアミノ酸と異なっていた(未提示データ)。 本研究では、まず初めに患者のCLZ血中濃度いるか調べた。その結果、CLZトラフ値が治療域の上限を超えた患者は4名、下限を下回っていた患者は4名であった。No.5はCYP2D6の可逆的阻害剤であるメトクロプラミドを処方されており、これがCLZの代謝を低下させ、CLZトラフ値の上昇に寄与した可能性が考えられた。しかしながら、CYP2D6はCLZ代謝に関与する代謝酵素の1つと報告されているものの、CYP2D6がCLZ体内動態に与える臨床的意義は不明の部分が多い。したがって、メトクロプラミドの関与を証明するためには、CYP2D6に関するさらなる研究が必要と考えられた。 次に、CLZのC/D比を解析したところ、3名の患者で比較的高い値が示された(> 2 ng/mL/mg/day)。これまでに、欧州の人種よりもアジア系の人種のC/D比が比較的高いことが報告されている13)。本研究で求めた平均C/D比は1.6であり、既報の1.8と同等であった14)。また、2名の患者において、C/D/kg値が高く(> 0.050 /L・kg)、特にno.7はCLZトラフ値、C/D比、C/D/kg値が比較的高いことが確認された。CLZトラフ値、C/D比、C/D/kg値が高かったいずれの患者においても、CLZ薬物動態に影響を与える肝機能障害や腎機能障害が認められなかった。また、本研究で解析した症例数はを含む臨床的意義の関連については未解析である。 続いて、norCLZ濃度を測定し、CLZの代謝効率norCLZ/CLZ比が治療域(0.45−0.79)の上限を超えていた患者は4名、下限を下回っていた患者は1名であった。norCLZ/CLZ比が高かった4名のうち2名(no.6、10)は肥満(BMI≧25)であった。しかしながら、肥満はnorCLZ/CLZ比を高める要因ではなく、むしろCLZの代謝を抑制し、CLZ血中濃度の上昇に寄与する。さらに、no.10は、norCLZ/CLZ比が高値の4名の中で唯一の喫煙者であった。喫煙はCYP1A2を誘導するため、no.10のnorCLZ/CLZ比の上昇要因の1つとして寄与している可能性が考えられる。 本研究ではさらに、求めたCLZトラフ値、norCLZ/CLZ比、C/D比、およびC/D/kg値などのCLZ動態パラメーターと種々の薬物動態関連因子のSNPとの関係を調べた。 薬物代謝酵素の主要なSNPを解析したところ、CYP1A2の*1A/*1A、*1A/*1F、*1F/*1F変異が認められた患者数はそれぞれ2名、5名、3名であった。CYP1A2 *1F/*1F変異は、喫煙によるCYP1A2の誘導をさらに促進する。CYP1A2の*1F/*1F変異を有する喫煙者の代謝活性は、他の遺伝子型を持つ喫煙者に比べて1.6倍高いことが知られている。喫煙者は、上述の通り1名のみであり、CYP1A2 *1F/*1Fを持つ3名の患者は非喫煙者であった。したがって、CYP1A2 *1F/*1FのみではCLZ動態パラメーターの変動を説明できないことが示された。CYP2C19のPMである患者は1名、IMである患者は4名であった。また、CYP2D6のIMである患者は2名であった。CYP2C19およびCYP2D6がCLZ代謝に関与していることが報告されているが、その臨床的意義を示すためには研究が必要と考えられる15)。CYP3A4変異*1/*1Gを有する患者は3名であった。CYP3A4*1Gアレルを有する患者では、CYP3A4*1/*1の遺伝子型を有する患者と比較してタクロリムスのC/D比が有意に低いことが知られている。また、CYP3A5の*1/*3および*3/*3変異を有する患者数はそれぞれ2名および8名であった。CLZがCYP3A5の基質である場合、*1/*3の変異を有する患者においてCLZの血中濃度は変異を有さない患者より低くなると考えられる。しかしながら、本研究で解析した患者において、そのような変動は67
元のページ ../index.html#81