臨床薬理の進歩 No.46
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方  法の上昇と薬物排出トランスポーターABCG2 (421C>A) の関連7)や、CLZ誘発性顆粒球減少症と肝臓の有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)の関連が報告されている8)。しかしながら、OATPと顆粒球減少の関連はゲノムワイド関連解析(GWAS)によって特定されたもので、直接的な影響は明らかではない。 OATPは、肝臓、腎臓、小腸などのさまざまな組織に発現するNa+非依存性のトランスポーターであり、胆汁酸などの内因性物質やさまざまな薬物の細胞膜輸送に寄与することが知られている。OATP1B1、OATP1B3、およびOATP2B1は、肝細胞の洞様膜に局在し、広範な薬物および内因性化合物の輸送を担う。OATPは肝細胞内への薬物取り込みを担うことから、薬物の代謝酵素へのアクセスや胆管中への排泄の双方に影響を及ぼし得る。そのため、肝臓の薬物クリアランス全体の律速になる重要な分子と考えられている。 以上のように、日本人を含む東アジア人においてCLZの体内動態変動に寄与する薬物動態関連因子についてはさらなる研究の余地がある。そこで、本研究では、日本人を対象として、種々の薬物動態関連因子(薬物代謝酵素およびトランスポーター)のSNPとCLZの動態変化との関連を調査することとした。さらに、in vitro細胞実験および分子ドッキング計算によって、CLZが薬物動態関連因子の基質であるか解明することを目的とした。倫理 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、また、東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を受けた後に実施した(プロジェクト番号:2023-1-618-1(承認日 2019年10月28日)および2024-1-123(承認日 2021年6月28日))。研究の開始前に、すべての参加者から書面によるインフォームドコンセントを得た。58循環器系の重篤な有害事象の発現リスクが上昇することが知られており、海外のガイドラインでは有効血中濃度域が350〜600 ng/mL(トラフ値)とされ、本邦でも2022年度の診療報酬改定で特定薬剤治療管理料1の算定対象となっている。 また、CLZを投与した場合に、同じ投与量でも東アジア人の血中濃度が他人種に比べて上昇しやすいため、国際ガイドラインでは、東アジア人(日本人を含む)におけるCLZ投与量の増量の際は、患者の状態を十分観察しながら慎重に漸増することを推奨している。最近、菊地らは、CLZの漸増によって日本人患者における有害な炎症反応を軽減することを報告した2)。 臨床現場において、アミオダロン、フルボキサミン、シプロフロキサシン、経口避妊薬、および高用量カフェインなどはチトクロームP450(CYP)1A2の活性を阻害することで、CLZ代謝を阻害することが報告されている3)。その上、肥満や慢性炎症もCLZの代謝に影響を与えることが報告されている3)。CYP1A2に比べてCLZ代謝への寄与は小さいと考えられていたCYP3A4の重要性についての報告もある4)。最近、渡辺らは、CYP3A4阻害剤であるレンボレキサントを併用していたCLZ服用患者において、CLZの血中濃度が上昇し、CLZ濃度/投与量比(C/D比)は約2倍に上昇したことを報告した5)。また、我々のグループは、同様にCYP3A4阻害剤であるスボレキサントを併用していたCLZ服用患者において、CLZの血中濃度が上昇したことを報告した6)。これらの報告から、レンボレキサントやスボレキサントといったCYP3A4阻害剤の併用が、おおよそ2倍程度のCLZ血中濃度上昇を引き起こすことを示唆しており、主治医は重篤な副作用の発現に注意が必要であると考えられた。 さらに、CLZの動態変動への関与が指摘されるCYP1A2およびCYP3A4に加えて、これまで種々の薬物代謝酵素やトランスポーターなどの薬物動態関連因子の一塩基多型(SNP)の影響が解析されてきた。例えば、CLZ血中濃度/投与量(C/D)

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