臨床薬理の進歩 No.46
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対象と方法心エコーデータ、血行動態データ、移植登録時の治療内容を収集した。移植登録時のヘモグロビンの中央値に基づいて患者をヘモグロビン高値群とヘモグロビン低値群に分類した。鉄欠乏の定義は、血清フェリチン100 ng/mL未満(絶対的鉄欠乏)または100~299 ng/mLかつトランスフェリン飽和度20%未満(機能的鉄欠乏)とした。ビソプロロール5 mgはカルベジロール20 mgと同等とし、アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬については、リシノプリル10 mg、ロサルタン50 mg、バルサルタン80 mg、カンデサルタン8 mgはエナラプリル10 mg と同等とした。主要評価項目は、移植登録日から1年以内の全死亡と心不全入院の複合エンドポイントとした。統計解析 すべての連続変数は平均±標準偏差として表現した。すべてのカテゴリ変数は頻度(パーセンテージ)として表現した。ヘモグロビン低値群とヘモグロビン高値群の比較において、連続変数の場合は対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を使用した。カテゴリ変数の場合はχ2検定またはFisherの正確検定を使用した。心不全入院回避生存率はカプランマイヤー法により評価し、ヘモグロビン低値群とヘモグロビン高値群でログランク検定によって比較した。単変量および多変量Cox比例ハザードモデルを用いてオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を計算し、主要評価項目の予測因子を同定した。多変量Cox比例ハザードモデルでは、年齢、性別、ヘモグロビン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの変数を選択し多変量解析を行った。多変量解析の結果から、ヘモグロビンとBNPという2つの独立した因子を使用して心不全入院回避生存率を解析した。ヘモグロビンとBNPのカットオフ値は、受信者動作特性(ROC)曲線に基づいて設定した。ヘモグロビン高値でBNP低値(グループA)、ヘモグロビン高値でBNP高値(グループB)、ヘモグロビン低値でBNP低値(グループC)、ヘモグロビン低値で48経口鉄剤は心不全の経過に影響しないことが明らかとなり、最近は静注鉄剤の有効性が注目されている。CONFIRM-HF研究では、左室駆出率(LVEF)45%以下で鉄欠乏を伴う心不全患者において、静注カルボキシマルトース鉄による治療は心不全入院を有意に減少させた6)。 慢性心不全は進行性の疾患であり、心不全患者の5~15%が重症心不全に至る7,8)。重症心不全は標準的な薬物および非薬物療法に反応せず、その治療選択肢としては左室補助人工心臓(LVAD)や心臓移植がある。貧血の有病率は慢性心不全の重症度と相関しており9,10)、これまでの研究ではニューヨーク心臓協会心不全分類(NYHA)IまたはⅡ度、およびⅢまたはⅣ度の患者の21.7%および33.2%に貧血を合併していることが示されている9)。しかし、心臓移植を必要とするような重症心不全患者において、ヘモグロビンの臨床的意義は不明であった。そこで本研究では、心臓移植登録を行った重症心不全患者におけるヘモグロビンの臨床的意義を解明することとした。患者選択 本研究は単施設後ろ向き研究であり、2011年から2022年に九州大学病院で心臓移植登録された患者を対象とした。わが国の心臓移植登録患者は、その状態によって2つのグループに分類される。ステータス1は、LVADまたは静注強心薬に依存している患者、ステータス2は、NYHAⅢまたはⅣ度の心不全症状を有するが静注強心薬やLVADは必要としない患者である。本研究では、ステータス2として移植登録されている患者の臨床データを後ろ向きに収集した。本研究はヘルシンキ宣言に従い、九州大学病院の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:23161-01)。変数と評価項目 患者基本情報、バイタルサイン、臨床検査データ、

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