臨床薬理の進歩 No.46
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方  法図1 研究概念図有害事象報告データベース解析 WHOが提供する医薬品有害事象報告データベース(VigiBase)を用いてサルコペニア治療薬候補の探索を行った。VigiBaseには、世界中150か国以上から収集された医薬品有害事象報告が蓄積されている5)。本研究では、Uppsala Monitoring Centreが公開している2023年12月時点のデータファイルを解析に用いた。Uppsala Monitoring Centreの推奨に従って重複データを除外し、残りの報告を解析に使用した。データはGoogle BigQuery (Google LLC)および、SQLiteデータベースver.3.33.0(SQLite Consortium)を用いて処理し、統計解析はR ver.4.0.3(The R Foundation、Vienna、Austria)を用いて行った。抽出に用いた有害事象名は、ICH国際医薬用語集MedicalDictionary for Regulatory Activities(MedDRA)に準拠し、表1に示した用語を用いた。 本研究では、筋萎縮の副作用が知られている副腎皮質ステロイドであるデキサメタゾンに対して筋萎縮抑制効果を有する薬剤をVigiBase解析によって探索した。デキサメタゾンは、サルコペニア同様にⅡ型速筋線維の萎縮を起こすことが知られており、動物実験においてもデキサメタゾン投与モデルマウスは広く研究に用いられている6)。そのため、データベース解析においても、デキサメタゾン誘発筋萎縮に対する治療薬を探索した。38されていない原因として、サルコペニアがホルモン分泌量低下やタンパク合成・分解バランスの異常、酸化ストレス等の多因子が関与した病態であることが挙げられる。このように多くの要因が絡み合って発症するサルコペニアに対しては、病因となる分子を特定し、それに作用する化合物を見つけ出すという創薬モデルでは、真に有効性の高い治療薬を開発することが困難であった4)。 加えて、サルコペニア治療の対象となる患者層は、加齢に伴い肝機能や腎機能が低下している割合が高いため、安全性の高い治療薬が求められる。そのため、サルコペニアに対する治療薬を開発するためには、多因子が関与した複雑な病態に対して効率的に作用し、かつ肝機能・腎機能障害患者に対しても安全に使用できるという点を満たす治療薬を探索する革新的な創薬手法が求められている。 そこで本研究では、医療ビッグデータ解析を基盤として、既存承認薬の中からサルコペニアの新規治療薬を探索することを目的とした。ヒトに対する安全性が既知である既存承認薬の新たな薬理作用に注目することで、肝機能・腎機能が低下した患者に対しても安全に使用可能な薬剤を探索することができる。加えて、医療ビッグデータを用いることで、臨床的エビデンスに基づき実際の患者に対しても有効性の高い治療薬候補を見出すことが可能となる(図1)。

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