*1Niimura Takahiro 徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床薬理学分野*2Yagi keNTa *3ishizawa keisuke 徳島大学病院 薬剤部はじめに要 旨徳島大学病院 総合臨床研究センター目的 サルコペニアとは、加齢により筋肉量の減少および筋力の低下が生じた病態であり、日常生活の基本的な動作への影響のみならず、転倒・骨折などリスク増加や介護の必要度上昇につながることが知られている。サルコペニアの治療法としては運動療法や食事療法が挙げられるが、関節機能障害、消化器官の機能不全など身体機能の低下などが原因となり、それらの治療法を用いることができる患者は限定される。新たな選択肢として薬物治療が挙げられるが、有効性が確立している薬剤は存在せず、治療薬開発が喫緊の課題となっている。そこで本研究では、医療ビッグデータを活用することで、既存承認薬の中から新規サルコペニア治療薬を探索した。方法 有害事象報告データベースを解析し、筋萎縮の報告頻度を有意に低下させる薬剤を、サルコペニア治療薬候補として抽出した。抽出された薬剤に関して、パスウェイ解析を実施し、筋萎縮関連分子への影響を評価した。さらに、マウス筋芽細胞を用いた実験により、候補薬剤の筋萎縮抑制作用を検討した。結果 医療ビッグデータ解析により、7種類の薬剤で筋萎縮の報告頻度が低下する傾向がみられた。パスウェイ解析では、抗ヒスタミン薬のクロルフェニラミンが筋タンパク分解関連因子Atroginの発現を抑制することが示唆された。細胞実験を行った結果、クロルフェニラミンは、Atroginの遺伝子発現を抑制し、筋萎縮を抑制することが明らかとなった。結論 医療ビッグデータを用いた解析により、既存承認薬の1つがサルコペニアの治療薬候補として見出された。 サルコペニアは、加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下であり、生活の質(QOL)の低下だけでなく死亡率増加にも関連する病態である1,2)。高齢者における有病率は、9.9~40.4%と報告されており、高齢化に伴い患者数の増加が予想されている3)。このような背景から、サルコペニアにおける筋萎縮を抑制する戦略が多数検討されている。例えば、有酸素運動やレジスタンス運動などは、筋タンパク合成促進や筋衛星細胞の活性化などを誘導するため、効果的なアプローチとして考えられている。しかしながら、高齢者の多くは、関節や骨・腱の障害を有しており、筋萎縮を抑制するのに十分な強度の運動を実施できない場合も多い。 筋萎縮を抑制するための別のアプローチとして、筋増殖抑制因子 myostatinやその受容体 activin receptor、男性ホルモンのtestosteroneを創薬標的として、治療薬の開発が世界中で試みられている。これまでに、サルコペニアの治療薬開発を目的として20を超える臨床試験(2024年10月時点)が実施されてきたが、実際に臨床応用に至った治療薬は存在しない(NIH ClinicalTrial.gov)。サルコペニアに対する薬理学的アプローチが、臨床応用Key words:サルコペニア、医療ビッグデータ、筋萎縮医療ビッグデータを用いたサルコペニア治療薬の開発Development of drugs for sarcopenia using large-scale medical data新村 貴博*1 八木 健太*2 石澤 啓介*337
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