臨床薬理の進歩 No.46
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結  果CobsとCpredの相関を評価するとともにCobs/Cpred濃度比を算出した。変数の比較にはノンパラメトリック検定を適用した。ADR の発現に対するPKパラメーターのカットオフ値は、Receiver Operating Characteristic(ROC)解析により求め、ROC曲線下面積(AUROC)を用いて評価した。予測の偏りと精度の定量的評価は、それぞれ平均誤差割合(ME%)± 標準誤差(SE)と二乗平均平方根誤差(RMSE%)を用いて行った。PBPKモデルの構築と成人モデルの性能評価 本研究において収集した全ての成人の血清中フェンタニル濃度の文献報告値は、予測された血清中フェンタニル濃度の90%予測区間内にあり、予測濃度の0.5–2倍の範囲にあった(データ未提示)。本解析における予測精度は、ME% ± SEが1.40 ± 1.28%、RMSE%が22.1%であった。小児および新生児PBPKモデルの外挿 出生後日数(PNA)1日から9歳までの小児集団の血清中フェンタニル濃度のシミュレーションでは、文献から報告された血清中フェンタニル濃度の 97.4%が予測濃度の0.5–2 倍の範囲内であった(図1A、1Bおよび1C)。本解析における予測精度は、ME% ± SE値が−8.72±5.94%、RMSE%値が36.2%であった。白人の新生児集団では、文献から報告された血清中フェンタニル濃度の90.4%が予測濃度の0.5–2倍の範囲内であった。予測精度は、ME%±SEが10.2 ± 10.2%、RMSE%が52.0%であり、小児集団と比較してわずかに高い偏りを示した。フェンタニルの代謝、排泄経路、薬物動態の成熟化 成人におけるフェンタニルの代謝・排泄経路は、CYP3Aの割合が59.7%、非特異的な肝代謝の割合が31.6%、尿中排泄率が8.7%と推定された(表1)。一方、新生児においては、GA25からGA40にか22薬物有害反応(ADR)の評価 フェンタニルによるADRは、酸素飽和度(SpO2)低下、乏尿、徐脈、血圧低下と定義し、電子カルテに記録されたパルスオキシメトリーによる経皮的酸素飽和度、尿量および心電図の値を基に判定した。各ADRの臨床的閾値は、SpO2低下:SpO2 <90%、乏尿:出生24時間後の尿量<1 mL/kg/h、徐脈:心拍数<100 bpm、血圧低下:平均動脈圧 <30 mmHgとして判定した。さらに、SpO2は、酸素補給を受ける新生児の推奨目標範囲90–95%からの逸脱に基づいて、軽度(SpO2:88–89%)、中等度(SpO2:85–87%)、重度(SpO2:<85%)の3段階の重症度カテゴリーに分類した。新生児に対するフェンタニルの投与設計手法 新生児におけるフェンタニルの目標濃度範囲を以下のスキームで設定した。まず、新生児がフェンタニルの投与を終了し、覚醒する時点のフェンタニル濃度の中央値を算出することで、鎮静効果が得られる最小の血清中濃度を特定した。次に、ADR発現を最小化する血清中濃度の上限値を定義した。上限値は、本研究対象集団におけるADRの発現に関連するPKパラメーターに基づき設定することとした。なお、濃度用量比(CDr)は、点滴開始から終了までのAUC(AUC0-end; ng/mL・h)を総投与量(µg/kg)で除することで算出した。また、既報で報告されているADRの閾値についても参照した。現在の標準的な投与レジメンによるフェンタニルの点滴投与を異なるGA群においてシミュレーションし、設定した目標濃度範囲内を維持するかを評価した。さらに、目標濃度域に基づき投与レジメンを最適化するための代替レジメンを検討した。統計解析 モデルの妥当性は、血清中フェンタニル濃度の文献報告値または実測値(Cobs)と予測値(Cpred)および5–95 パーセンタイルの予測範囲を重ね合わせたvisual predictive checkにより評価した。モデルの精度は、成人、小児、新生児の集団について、

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