臨床薬理の進歩 No.46
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方  法新生児におけるフェンタニルの有害反応と薬物動態の評価:生理学的薬物動態モデリング&シミュレーションによるアプローチフェンタニルは主にCYP3A4により、一部はCYP3A5により、不活性代謝物であるノルフェンタニルに代謝されるが、新生児では出生直後に胎児型CYP3A7アイソフォームから成体型であるCYP3A4に移行するため7)、他の成熟の変化も重なり、血中濃度の予測がより複雑である。また、小児や新生児の集団で薬物動態(PK)試験を実施することの倫理的・実践的な課題があり、このような集団におけるフェンタニルのPKを評価するためのデータが蓄積されていない。これらの課題に対処するためには、新生児の成熟を考慮した生理学に基づく予測PKモデルが有用である。薬物固有の物性と生理的PKの特性を統合した生理学的薬物動態(PBPK)モデルは、小児患者に対する体重に基づく従来の投与設計法に代わる選択肢を提供できる可能性がある。 本研究は、新生児集団におけるフェンタニル用量設計手法を確立することを目的とし、早産児および正期産児を含む様々な集団にわたるフェンタニルのPKを予測するためのPBPKモデリングおよびシミュレーションを実施し、予測されるPKパラメーターとフェンタニルに関連するADRの発現との関連を評価した。ソフトウェア PBPKモデルの構築とシミュレーションには、Simcyp Population-Based Pharmacokinetic Simulator Sheffield、UK)を用いた。文献に図示された血清中フェンタニル濃度の報告値は、WebPlotDigitizer Version 4.4(PLOTCON 2017-Oakland、CA 8))を用いて数値化した。統計解析とグラフプロットには、R version 3.6.1(R Core Team)およびMicrosoft Excelを用いた。フェンタニルPBPKモデルの構築 フェンタニルのPBPKモデルは、多数の臨床データを用いた多段階の手順により構築した。化合物の物性に関連する文献と関連する臨床研究からパラメーターを収集し、モデルに組み込んだ。日本人新生児患者集団モデルは、Simcypが提供する新生児患者集団に小児日本人集団の特性を組み込むことで構築した。モデルの妥当性は、成人、小児および新生児患者に対する臨床研究の報告値を用いて検証した後に、実症例への適用を行った。PBPKモデルの実症例新生児への臨床応用と血清中フェンタニル濃度測定 本研究は、後方視的観察研究として神戸大学大学院医学研究科等医学倫理委員会の承認を得て実施した(No.B210177)。データ収集期間は2017年1月1日から2020年12月31日までであった。選択基準は、2017年1月1日から2020年12月31日の間に神戸大学医学部附属病院のNICUに入院し、人工呼吸器装着のための鎮静を目的としてフェンタニルを投与された新生児であり、患者背景や臨床転帰のデータが入手可能な妊娠週数(GA)が 25 週以上であった新生児とした。本試験の除外基準には、公開された研究情報に対して参加拒否を親権者が申し出た患者とした。血清中フェンタニル濃度測定用サンプルには、臨床検査用の残余血清検体を用い、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析装置(LC-MS/MS)による分析を株式会社LSIメディエンス(東京、日本)に委託した。 Simcyp Simulator V22 Excel Plugin で利用可能なVirtual Twin機能を使用して、本研究で登録した実症例の日本人新生児患者の個別パラメーターを有する仮想集団のフェンタニル薬物動態のシミュレーションを行った。このモデルには、年齢、性別、体重、身⻑、ボーラス投与などの実際の投与情報など、電子カルテから取得した特定の変数を組み込んだ。また、実症例のPKパラメーターを正確に反映させるため、Parameter Estimation(PE)モジュールにより実測値に適合させるための固有クリアランス(CL)を組み込んだPEモデルを構築した。version 23(Certara UK Limited、Simcyp Division、21

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