*1Yamamoto Kazuhiro *2Walaa Yousef BassYouni mahdY 神戸大学医学部附属病院薬剤部、*3fujioKa Kazumichi *4Yano iKuKo はじめに要 旨 目的 新生児に対するフェンタニルの最適な投与設計手法を開発することを目的に、生理学的薬物動態 (PBPK) モデルを構築し、予測薬物動態 (PK) パラメーターとフェンタニルによる有害反応 (ADR) 発現との関連を評価した。方法 PBPKモデルを構築し、実症例に基づくシミュレーションによって推定された各種PKパラメーターをADR発現患者と非発現患者で比較した。結果 本研究で構築したPBPKモデルは、新生児の実症例における血清中フェンタニル濃度を精度良く予測した。ADR発現患者においては、フェンタニルの予測濃度/用量比が有意に高かった。投与速度を減速したレジメンのシミュレーションでは、フェンタニル予測濃度が本研究データに基づく目標濃度域を推移した。結論 PBPKモデリング&シミュレーションは、新生児における鎮静効果の維持とADRの最小化のための個別化レジメンの設計を可能とする。岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬学系) 臨床基礎統合薬学分野、(元:神戸大学医学部附属病院薬剤部)Department of Forensic Medicine and Clinical Toxicology, Faculty of Medicine, Assiut University神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野神戸大学医学部附属病院薬剤部使用は、酸素飽和度(SpO2)低下、乏尿、呼吸抑制などの重篤な薬物有害反応(ADR)をもたらすことから4)、リスクを軽減するための投与設計手法の確立が急務である。 新生児における薬物の投与量は、体格に合わせた調節を行った場合でも、薬物の蓄積が生じることがある1)。現在、小児の投与量設計は、体重に基づく成人投与量からの線形外挿により算出することが多いが、この方法では薬物代謝や排泄能力の成熟の違いを考慮できない5)。成熟の変化を組み込んだ予測モデルの開発は、投与量の個別化と臨床転帰の向上において極めて重要である6)。特に、 Key words:新生児、フェンタニル、生理学的薬物動態モデル、シミュレーション、用量設計新生児におけるフェンタニルの有害反応と薬物動態の評価:生理学的薬物動態モデリング&シミュレーションによるアプローチEvaluation of adverse reactions and pharmacokinetics of fentanyl in neonates:A physiologically based pharmacokinetic modeling and simulation approach山本 和宏*1 Walaa Yousef Bassyouni Mahdy*2 藤岡 一路*3 矢野 育子*420 フェンタニルは、新生児や小児の集中治療における鎮静に用いられる合成オピオイドである1)。集中治療領域のガイドラインでは、人工呼吸中の疼痛とストレスの緩和に、フェンタニルの低用量持続点滴が推奨されており2)、諸外国では、2歳未満のICU入室患者に鎮静薬としてフェンタニルが適応外使用されることが多いが3)、新生児集中治療室(NICU)に入室する患者への最適な投与量や投与方法はまだ十分に確立されていない。循環動態の不安定な早産児に対するフェンタニルの
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