9 考 察オゾラリズマブのPK-ADAと臨床アウトカム オゾラリズマブに対するADA評価系を構築するための陽性対照として、ウサギに免疫してカスタム作製したポリクローナル抗オゾラリズマブ抗体の反応性を検討した。その結果、濃度依存的なレスポンスが確認でき、陽性対照500 ng/mL含有試料では、オゾラリズマブ250 µg/mL存在下まで陽性を示した(図5)。 表1に示したIMPACTコホートの患者集団の内、RAに対してオゾラリズマブ療法が施行された患者5名と新たな症例3名(登録期間:2024年8月末迄)を合わせて、PKおよびADA評価を行った。オゾラリズマブのCmin平均値は2 µg/mLであり、日本人RA患者における平均値(約2 µg/mL)とよく対応していた(図6A)3)。また、いずれの症例も抗オゾラリズマブ抗体の産生は認められず、16週までに有効性のカットオフ値1 µg/mLを超えていた図6B)における薬物の消失半減期は19.9日と推定され、日本人RA患者における報告値(18日)と類似していた3)。一方、寛解が得られた後、経済的理由により中止となった症例(case 4、図6B)における薬物の消失半減期は31.9日と比較的長く、中止後も寛解が維持されていた。なお、感染症が2名(25%)で確認されたが、重篤な有害反応は認められなかった。 日本人患者における抗体医薬品を用いた治療の継続性に対する抗菌薬使用のリスクが、治療前の使用歴と治療期間中の併用使用で異なることが、多様な疾患を有する患者集団と複数の異なる作用機序(mode of action:MOA)を有する抗体薬を含めた今回のコホート研究によって初めて明らかとなった。過去の報告では、治療前の抗菌薬の使用歴が、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療に対してネガティブに影響することが示されているが、本研究では概してその影響は認められなかった抗体医薬品のPK-ADA解析を基盤とした治療最適化に資するリアルワールドエビデンスの創出(表3)8,9)。一方、多変量解析の結果、治療期間中の抗菌薬の併用使用と女性の性別が、抗体薬の治療失敗に対する有意なリスク因子であることが明らかとなった(表3)。過去の研究により、男性の性別が抗体薬のクリアランス増大と関連することが示されている11)。PKの観点から、男性の方が女性と比べて、薬物血中濃度が低くなり、LORによる治療失敗のリスクが男性患者において上昇すると推察されるが、今回の結果とは一致しなかった。 一方、免疫応答には性差が認められており、液性免疫の主体となる抗体の産生は、女性の方が高いことが知られている12)。免疫原性の観点から、女性患者において体内に投与された抗体薬に対するADA産生リスクが高くなり、LORによる治療失敗のリスクが女性患者において高かった可能性が理由の1つとして考えられる。特に、抗体薬を用いた治療期間中に、感染症等に対して抗菌薬を女性患者に使用する場合には、治療失敗リスクの回避のために、抗菌薬併用の必要性を慎重に検討すべきである。しかし、本研究の限界として、単施設で実施された小規模なレトロスペクティブ研究である点、抗菌薬の種類と使用期間を分類して解析が実施されていない点、抗菌薬以外のdysbiosisの原因となる薬剤(制酸剤、NSAIDs等)や生菌製剤(プロバイオティクス)の影響が検討されていない点、抗菌薬併用による抗体薬の治療失敗リスク上昇の分子的な機序(中和抗体産生)が不明である点が挙げられる13)。今後、これらの点について詳細な解析を実施して、その因果関係のメカニズムを解明する必要がある。さらに、性差を考慮した抗体治療戦略の開発や抗体療法における抗菌薬の適正使用に関するリバーストランスレーショナル・リサーチ(rTR)が重要と考える。 また本研究では、IBD患者を対象に、ウステキヌマブのPKと免疫原性プロファイルおよび臨床アウトカムとの関連を調べた。その結果、臨床的寛解を予測するCminの最適カットオフ値は、約2 µg/mLと推定され(図4)、日本人クローン病患者における内視鏡的寛解を予測する最適カット(図6A)。16週目に無効中止となった症例(case 1、
元のページ ../index.html#23