臨床薬理の進歩 No.46
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方  法のTDMの臨床的有用性に関するエビデンスは乏しい4)。 著者らはこれまでに、リアルワールドにおけるPD-1阻害薬ニボルマブおよびペムブロリズマブに対するADAの発現状況について前向きに調査し、臨床的関連性等を明らかにしてきた(CHOPIN研究:UMIN000033036)5)。本研究において、ADAが持続的に陽性となる症例は、それ以外の症例と比較して予後不良であり、persistent ADAは予後予測因子である可能性が示唆された6)。しかし、ADAが陽性(持続的陽性)となる原因や治療継続率の低下に繋がる詳細なメカニズムについては、十分に解明することができなかった。 近年、抗体薬の免疫原性の個人差および治療効果に関して、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)との関係に注目が集まっている。最近、Gorelikらが、イスラエルの炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)患者から成る全国レジストリ(epi-IIRN)のデータ解析によって、抗TNF-α抗体薬インフリキシマブおよびアダリムマブに対するADAの産生リスクが、治療前・治療中に使用した抗菌薬の種類によって異なることを報告した7)。また、海外の研究グループによって、広域スペクトラムの抗菌薬の使用歴が、免疫チェックポイント阻害薬のLORと関連することが報告された8,9)。しかし、日本人患者における抗体薬の治療効果とdysbiosisの関係を調べた研究は乏しい。 そこで本研究では、抗体薬を用いた治療継続性に及ぼす抗菌薬使用の影響を明らかにすることを主目的とした。また、抗体薬のTDMの臨床的有用性に関する日本人のエビデンスを確立することを副次目的として、IBDに対する治療薬ウステキヌマブおよびRAに対する新規ナノボディ製剤オゾラリズマブのPK-ADAと臨床アウトカムとの関連を検討した。対象患者と倫理的配慮 札幌医科大学附属病院(以下、当院)において、がんまたは自己免疫疾患等の治療目的で、抗体医薬品を用いた治療を施行された患者を対象とした(対象期間:2020年4月1日以降2024年5月31日迄)。患者情報と抗菌薬使用に関する情報、および治療継続性に関する情報を電子カルテからレトロスペクティブに収集した。 本研究は、「実臨床における抗体医薬品の免疫原性評価と個人差要因解明に関する前向き観察研究(IMPACT研究)」の一部として実施した。また、研究プロトコルは、当院臨床研究倫理審査委員会によって承認され、その目的と研究実施についての情報を臨床研究等提出・公開システムに公開し、オプトアウト方式を用いて研究を実施した(jRCT1011220023)。血液検体 血液検体に関して、治療開始前(ベースライン)と治療期間中、および治療終了後にも血液検査後の残余検体(血漿・血清)を可能な限り長期に回収して、分析実施まで−30 ℃凍結保存した。ウステキヌマブまたはオゾラリズマブの投与直前に得られた血液検体をトラフ濃度(Cmin)測定用とした。また、ウステキヌマブ投与後4週目(前後1週間含む)に得られた血液検体をピーク濃度(Cmax)測定用とした。薬物血中濃度測定 ウステキヌマブおよびオゾラリズマブの血中濃度は、それぞれヒトIL-12/23 p40およびヒトTNF-αキメラ組換えタンパク質を固相化した96ウェルプレートを用いて、間接ELISAによって定量した(100 ng/well)。検量線は、各製剤(ステラーラ®およびナノゾラ®)から調製した標準溶液のデータポイントを4-パラメータロジスティック回帰曲線に当てはめ作成し、各時点におけるサンプル中の薬物濃度を算出した。薬物血中濃度の定量下限はいずれも6.25 ng/mLであり、duplicateで測定を実施し平均値を求めた。2

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