*1Hida Noriko *2Saito kiyomi *3oNo yaSuHiro *4SaNada keNji はじめに要 旨背景・目的 統合失調症は慢性的な精神疾患であり、患者は健康成人よりも併存疾患と死亡率が高いことが知られている。また、統合失調症患者は糖尿病や脂質異常症などの代謝異常のリスクが高いとされ、抗精神病薬の使用がこれらのリスクを高める可能性がある。今回、我々は統合失調症患者の血液と唾液中のアディポネクチン濃度を調査し、その特徴を明らかにすることを目的とした。方法 統合失調症患者と健康成人から収集したサンプルのうち、除外基準に抵触した者を除き、最終的に統合失調症群(S群)37名と健康成人群(H群)39名を対象に、血液中および唾液中アディポネクチン濃度の測定を行った。結果 S群の血液中アディポネクチン中央値はH群と比較して差はみられなかった。一方、女性の唾液中総アディポネクチン中央値はS群(69.04 ng/mL)がH群(11.63 ng/mL)と比較して有意に高値であった。男性では唾液中アディポネクチン中央値(S群:18.39 ng/mL vs H群:14.09 ng/mL)に明確な差はみられなかった。考察 本研究では入院中の統合失調症患者から低侵襲で唾液を採取し、アディポネクチン濃度を測定した。本研究結果より、女性の統合失調症患者における唾液中アディポネクチン濃度の上昇が、潜在的なバイオマーカーとなる可能性が示された。抗精神病薬の使用や口腔環境の変化が唾液中アディポネクチン濃度に影響を及ぼす可能性があり、この点についてはさらなる研究が必要である。唾液採取の簡便性を活かし、統合失調症患者の代謝状態を非侵襲的に評価できる新たなモニタリング手法として期待される。結論 本研究により、統合失調症患者、特に女性患者において唾液中アディポネクチン濃度が上昇していることが明らかになった。唾液採取の非侵襲性と簡便性を活かし、統合失調症患者の代謝状態を評価する新たな手法として、唾液中アディポネクチン測定の臨床応用の可能性が示された。知られている。また、統合失調症患者は健康成人よりも糖尿病、脂質異常症、腹部肥満、メタボリックシンドロームなどの代謝異常を有する割合が高いことが報告されている。治療薬であるオランザピン、クロザピンなどの第二世代抗精神病薬Key words:アディポネクチン、統合失調症、健康成人、バイオマーカー、非侵襲的検査昭和医科大学大学院薬学研究科臨床研究開発学分野(元:昭和大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門)、昭和医科大学臨床薬理研究所昭和医科大学大学院薬学研究科薬剤学分野昭和医科大学大学院医学研究科精神医学分野 同 上統合失調症患者および健康成人における唾液中および血液中アディポネクチン濃度に関する検討Adiponectin levels in saliva and blood in patients with schizophrenia and healthy adults肥田 典子*1 齊藤 清美*2 大野 泰裕*3 真田 建史*4 統合失調症は、人口の約1%が罹患している慢性的な精神疾患である1)。統合失調症患者は、健康成人よりも併存疾患と死亡率が高い2)ことが 137
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