の強いストロングスタチンに分類される。ストロングスタチンを服用した患者におけるOIPNの発現率は19.8%であり、他のスタチン(スタンダードスタチン)を服用した患者では20.0%であり、両群に有意な差はなかった。このことから、CIPNに対するスタチンの予防効果は、スタチンのpleiotropicなクラス効果である可能性があり、予防効果は脂質低下作用とは異なるメカニズムを有している可能性が考えられる。 本研究にはいくつかの研究限界が存在する。第1に、後方視的研究であり、CIPNの評価はカルテの臨床記録に基づいている。CIPNの評価は、神経障害を誘発する薬剤の使用や神経症状を含む患者の臨床歴に基づいて行われる2)。神経学的検査はCIPNの診断に用いることができるが、通常の日常診療では用いられるケースは少ない2)。グレード1の末梢神経障害は、無症状であり、深部腱反射の低下や知覚異常が特徴である。そのため今回の観察研究では、グレード1のCIPN評価の信頼性は十分とは言えず、自覚症状に基づくグレード2以上のCIPNを評価の対象とした。実際にグレード2以上のCIPNの発現率は全2657例で24.7%であり、過去の報告と一致した9,10)。一方、深部腱反射の低下や知覚異常も組み込んだ前向きな研究であれば、スタチン系薬剤のOIPNに対するより鋭敏な効果が評価できることが考えられる。第2に、本研究では、主にCRC患者を対象として、OIPNに対するスタチン系薬剤の効果を分析したが、症例数が限られていたため、他のがん種患者におけるスタチンの有効性は分析できなかった。そのため、本研究で認められたCRC患者におけるOIPNに対するスタチン系薬剤の有効性がCRC患者に限定された効果であるか否かは不明である。第3に、今回の解析では日本人患者のみを対象としたが、CIPNのリスクは人種によって異なる可能性がある。Schneiderらは、黒色人種がCIPN発現リスクの増加と関連していることを示した14)。さらに、神経障害と関連する可能性のある遺伝的変異は解析していない15)。また、スタチン服用群とスタチン非服 134CRC患者におけるスタチン服用群におけるグレード2以上のOIPNの発現率は、傾向スコアマッチング後、スタチン非服用群よりも有意に低かった。また、スタチンはCRC患者の末梢神経障害発現リスクを、オキサリプラチンの累積投与量に応じて低下させる傾向がみられた。本結果は、スタチン系薬剤がCRC患者におけるOIPNの予防に役立つ可能性が考えられる。 本研究によりスタチン系薬剤のOIPNに対する有効性は認められたが、スタチン系薬剤がOIPNの発現を抑制するメカニズムは不明である。そのメカニズムには、脊髄後根神経節におけるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)のアップレギュレーションが関与している可能性があり、これにより神経保護がもたらされる5)。OIPNの動物モデルにおいて、スタチンはGSTM1のmRNA発現を増加させ、神経細胞における活性酸素種レベルを低下させた可能性がある。この知見は、スタチンがPC12モデル神経細胞をオキサリプラチン誘発性の細胞死から保護し、この効果は、細胞内の酸化ストレスや反応性化合物の解毒に関与する酵素であるGSTの遮断によって逆転したことを示すin vitroの研究により示されている5)。シンバスタチンは、腰部脊髄におけるオキサリプラチン誘導性のERK1/2のリン酸化を阻害することで、OIPNに対する保護作用のメカニズムが考えられる。さらに、内皮機能の改善、血栓形成反応の抑制、末梢の炎症反応の調節が、スタチンの神経保護機序の可能性が考えられている。相澤らは、スタチンが免疫細胞の活性を調節し、GST経路を活性化することで、末梢神経障害の発生が抑制されることを示唆した13)。 スタチンは、親水性やコレステロールの低下作用の違いからサブグループに分けられる。本研究では、6種類のスタチンが使用されていたが、OIPNの発現率は、親水性と疎水性のスタチン系薬剤服用群で比較したが、同程度であった。一方、脂質低下作用はスタチンによって異なり、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチンは脂質低下作用
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