臨床薬理の進歩 No.46
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対象と方法となり、症例数の観点からも多施設共同研究によるカルテ調査を検討した。本研究では、オキサリプラチンを使用したがん化学療法により誘発される末梢神経障害に着目し、高脂血症治療薬(スタチン系薬剤)が予防効果を示すか否かについて検証した。多施設共同研究による後方視的カルテ調査 OIPNの発現に影響を与える因子ならびにスタチン系薬剤のOIPNへの影響を検討するために多施設共同臨床研究を実施した。2009年4月から2019年12月までの九州大学病院、岡山大学病院、昭和大学病院、福岡大学病院、愛媛大学医学部附属病院、浜松医科大学医学部附属病院、関西医科大学病院、横浜市立大学附属病院、徳島大学病院、東邦大学医療センター大森病院、川崎市立多摩病院、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターおよび旭川医科大学病院の計13施設の患者データを後方視的に収集した。オキサリプラチンの投与を受けた18歳以上の患者をカルテ調査の対象とした。オキサリプラチンの既往歴のある患者、他の抗がん剤や疾患による末梢神経障害の既往歴のある患者、臨床試験参加者、神経ブロック療法を受けたことのある患者、オキサリプラチンを含むレジメンに1サイクル以下で参加したことのある患者は除外した。 有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events; CTCAE ver 4.0)に基づくグレード評価によりOIPNを定義し発現の有無を調査した。同時に、各種医薬品の併用の有無および患者背景(年齢、性別、検査値、がん種、がんステージ等)についても調査した。倫理的配慮 本研究は、徳島大学病院倫理審査委員会での一括審査(承認番号3275)あるいは各施設での倫理員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言および人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針に従い実施した。128ラチンから脱離したオキサレート基の影響により生じると考えられている4)。しかし、そのメカニズムの詳細は未だ明らかとなっておらず、予防薬の開発に難渋しているのが現状である。 近年、臨床現場で使われている既存承認薬の新しい薬効を発見し、その薬を別の疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニングという創薬手法が提唱されている。既存承認薬はヒトに対する安全性や薬物動態に関する情報が蓄積されており、迅速に臨床応用することができる利点がある。HMG-CoA 還元酵素阻害薬は、高脂血症や家族性高コレステロール血症などの生活習慣病の患者に対して用いられる高脂血症治療薬として知られている。近年、動物実験により HMG-CoA 還元酵素阻害薬が神経障害性疼痛を軽減させることが報告された。また、細胞を用いた基礎実験においても HMG-CoA 還元酵素阻害薬が高血糖性の神経細胞障害を抑制することが報告されている。このように HMG-CoA 還元酵素阻害薬には、神経保護効果があることが報告されているが、OIPNに対する有効性は、不明確であった。そこで、座間味らは、大規模情報データベースの1つである、FDA有害反応データベース(FAERS)を活用して、オキサリプラチン使用患者における、末梢神経障害に対するHMG-CoA 還元酵素阻害薬の影響を解析した5)。その結果、HMG-CoA 還元酵素阻害薬を併用していた患者は、非併用患者に比して、末梢神経障害発現率の有意な低下が認められた。しかし、FAERSを用いたこの解析では、患者の一部情報しか解析できないという医療ビッグデータの限界があり、HMG-CoA還元酵素阻害薬による末梢神経障害への効果をより的確に検証するためには、病期などがんそのものの情報やHMG-CoA還元酵素阻害薬や他剤の服用・投与量などの詳細な情報を加えた解析を行うことが重要であり、そのためには詳細なカルテベースの調査が必要であると考えた。 そこで我々は、ドラッグリポジショニングの概念を基盤とし、オキサリプラチン投与患者でのHMG-CoA 還元酵素阻害薬服用患者の存在が重要

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