*1Fukunaga koya 国立研究開発法人理化学研究所 生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム*2Mushiroda Taisei 同 上 はじめに要 旨目的 アジアを中心とした13集団における、薬剤の効果や有害事象の発現リスクに関係するファーマコゲノミクス(PGx)関連遺伝子バリアントの大規模データベースを構築する。方法 13カ国から収集された2,998人のゲノムを対象に、PGx関連13遺伝子のアリル決定およびフェノタイプ推定を行い、標準的な薬物治療(20種類)と異なる用法・用量が推奨される患者の頻度を各集団間で比較した。結果 PGx関連遺伝子のアリルおよびフェノタイプ頻度を比較したところ、最大の頻度差はVKORC1のワルファリン感受性型で見られた(ナイジェリア94.2%、中国および日本0.0%)。また、標準治療とは異なる用法・用量が1種類以上の薬剤で推奨される患者は全体の97.2%にのぼった。結論 13集団におけるPGxバイオマーカーの機能的なアノテーションが付随したデータベースが構築され、世界的な精密医療の普及に貢献することが期待される。次世代シークエンサー (NGS) を用いた手法であるPKseqパネルとcorePGseqパネルを開発した2)。PKseqパネルを用い、990人の日本人由来ゲノムをシークエンシングしたところ、19遺伝子中にアミノ酸置換を伴う新規バリアントが142個も同定されている2)。このように全ゲノムシークエンシングやロングリードシークエンシング技術が進歩した現代においてもPGx関連遺伝子の新規バリアントは今なお同定され続けている。また、PGx関連遺伝子のバリエーション頻度は集団間によって大きく異なっている3)。そのためPGx関連遺伝子のバリエーション情報に関する研究の多くは、単一の集団での報告にとどまっており、様々な集団を統一されたプラットフォームでPGx関連遺伝子をシークエンシングした事例は皆無である。このためKey words:遺伝的多様性、次世代シークエンサー、ファーマコゲノミクス、CPICガイドライン、PGx関連遺伝子13集団のPGx関連遺伝子バリアントの大規模アノテーションデータベースの構築The establishment of large-scale database for the biomarkers of PGx-related genes in 13 populations福永 航也*1 莚田 泰誠*2108 ゲノム解析技術やそれを活用した研究開発の急速な進展により、遺伝要因による個人ごとの違いを考慮した精密医療の実現への期待が高まっている。特に、ファーマコゲノミクス (PGx) バイオマーカーには薬剤の効果や有害事象リスクを投薬前に予測することができる有用なマーカーが多く、そのほとんどが薬物動態関連遺伝子とヒト白血球抗原 (HLA) 遺伝子である1)。しかし、これらの遺伝子はジェノタイピングすることが困難な遺伝子領域に存在するため、ゴールドスタンダードとなり得る網羅的なジェノタイピング方法は存在しないことが問題になっている。我々は以前に網羅的かつ正確にPGx関連遺伝子のゲノムデータを取得可能な、
元のページ ../index.html#122