臨床薬理の進歩 No.46
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同一のTCRレパトアを持つクローナルなCD8T細胞が全身に分布 TCRシークエンシングにより、各組織におけるTCRのクローナリティを評価するために、メモリーマウスの背側の両側皮下にMC38細胞を移植し、メモリーマウスの各組織における上位100個のTCRクローンタイプの割合を比較した。その割合は、TCRβ鎖のCDR3配列の相同性によって決定した。その結果、腫瘍はdLN、脾臓、あるいはPBMCと比較して、様々なTCRクローンの拡大が示された。また、TCRレパトアのクローナリティは、メモリーマウスと未治療のマウスの間で有意差は認められなかった。次に、メモリーマウスには、再移植したMC38の攻撃を担う特徴的なレパトアを持つT細胞が存在するか調べるために、同一個体の左右腫瘍間のTCRレパトアを比較した。その結果、いくつかのTCRクローン型は腫瘍の両側で共有されていることが観察された。興味深いことに、記憶マウスとナイーブマウスでは腫瘍微小環境中のクローンの種類数は類似しているにもかかわらず、記憶マウスでは右と左で共有されるTCRのクローン数が有意に多いことが判明した。このことは、TCRの一致したT細胞クローンが、記憶T細胞として、メモリーマウスで働いている可能性が示唆された。次に、共有するTCRレパトアクローン型の全身分布を明らかにするために、両側に移植した腫瘍、dLN、脾臓、およびPBMCのTCRβ鎖のCDR3配列を比較した。その結果、メモリーマウスではいくつかのTCRクローン型が全身に分布しており、TILのTCRクローン型は、PBMCと比べてdLNや脾臓でより多くオーバーラップしていることが判明した。 次に、同一個体におけるTILのTCRレパートリーを経時的に比較するために、MC38細胞を移植し、抗PD-L1抗体を5回投与した。治療後に腫瘍の完全寛解(CR)を得られなかったマウスから、残った腫瘍を麻酔科で外科的に切除した。創傷治癒後、MC38細胞を再移植した。すると、抗PD-L1単剤療法でCRが得られなかったにもかかがん免疫記憶同系マウスモデルの確立と治療抵抗性機構解析への応用わらず、外科的に残存腫瘍を摘出したマウスの約半数で、再移植したMC38細胞を拒絶し、免疫記憶を獲得していると示唆される。これらの外科的に残存腫瘍を切除して作製したメモリーマウスのうち4匹を用いて、再移植したMC38腫瘍中のTILにおけるTCRレパトアの変化を、移植後ほどなくして外科的摘出を行う実験を2回繰り返して評価した。その結果、1回目と2回目の再移植実験では、同じTCRレパトアを持つクローンが繰り返し観察された。この繰り返し観察されたTCRレパトアは、最初に外科的に切除した原発巣でも認められており、1回目と2回目の再移植巣の間で共有された28のクローン型のうち、切除された腫瘍では10クローン型(35.7%)が検出された。各クローンタイプの比率は移植ごとにダイナミックに変化しており、切除腫瘍のマイナーなTCRクローンであっても再移植腫瘍で拡大することもあることが判明した。これらの結果は、メモリーマウスがMC38細胞に対する全身性の宿主免疫応答を長期間にわたって多様なTCRレパトアをもつT細胞クローンを保持しながら維持していることを示唆している(図1)。 また、転移性大腸がん患者で、複数回の転移巣摘出手術を受けた患者腫瘍をメモリーマウスでのレパトア解析同様にTCRを解析したところ、共通したTCRクローンタイプが、異なる時期に検出された。このことは、あたかも腫瘍を追いかけるようにT細胞が原発巣、転移巣に入っていることを示唆していると考えられる1)(図2)。 本研究で樹立したMC38免疫記憶マウスモデルは、全身性のメモリーT細胞の挙動を解析するのに有用なモデル系である可能性が示された 2)。この免疫記憶モデルはICI抵抗性機構の解析モデルとしても有用であることが別途研究から示され、現在もこの系を用いてCRISPRライブラリーを導入したMC38細胞を移植し、メモリーマウスでも生き残って腫瘍形成するMC38細胞が持っていたsgRNAを同定することで、新規治療抵抗性機構の探索を行っている。また、メモリーマウスを用103

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