*1Katayama Ryohei 公益財団法人がん研究会 がん化学療法センター 基礎研究部はじめに要 旨目的 効果的で長期にわたる免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療を実現するには、宿主の抗腫瘍免疫反応を理解し、治療抵抗性機構を解明していくことが必要である。そこで、がんに対する免疫記憶マウスモデルを確立し、その詳細な特性を明らかにするとともに、治療抵抗性機構解析研究に応用することを目指した。方法 MC38マウス結腸がん細胞を同系マウス(C57BL6)に移植した後に、抗PD-L1抗体を投与して完治したマウス、部分的な腫瘍退縮を示したマウスを詳細に解析した。免疫記憶の形成はMC38細胞を再移植することで確認し、T細胞受容体(TCR)レパートリーを含む免疫微小環境の詳細な解析を実施した。また、大腸がん患者の切除腫瘍(原発巣、異時性に切除された転移巣)を用いてTCRクローン型を解析した。結果 抗PD-L1抗体投与で完治したマウスすべてで、CD8-T細胞依存的な免疫記憶が形成されており、特定のTCRレパートリーを持つT細胞が腫瘍局所で拡大して全身に分布し、再移植腫瘍に対して迅速かつ強固な免疫応答を示した。大腸がん患者の原発巣・転移巣の解析からは、共通したTCRクローンが異時性に切除された転移巣にも存在することを見出した。結論 本研究において、ICI治療への耐性機構を解析するのに有用なCD8-T細胞依存的な免疫記憶マウスモデルの確立に成功した。ICI治療で最もよく使われている抗PD-1抗体や抗おり、主に腫瘍生検検体を用いた腫瘍微小環境(TME)における免疫細胞種およびそれらの応答についての解析が行われてきた。TMEにおけるCD8陽性の細胞傷害性T細胞密度の増加は、悪性黒色腫患者の良好な予後と相関していることが示されている。ICI治療の持続的な抗腫瘍効果には全身的な宿主免疫反応が必要であることが報告されており、腫瘍に対する全身的な免疫反応の評価の重要性が認識されるようになってきている。 本研究では、長期にわたる抗腫瘍免疫の持続を明らかにするために、マウスモデルを確立して抗腫瘍免疫応答を詳細に解析することとした。さらに、進行期の転移巣のある大腸がん患者の外科的切除 がん免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などの免疫療法の進歩は、様々ながん、特に悪性黒色腫や非小細胞肺がんの患者に大きな成果をもたらした。PD-L1抗体などは、腫瘍細胞に対する細胞傷害性T細胞を再活性化し、腫瘍の退縮を誘導する。一部の患者ではICI治療後に顕著な腫瘍縮小効果が長期にわたって持続されることが明らかにされているが、ICI治療に全く反応しない患者も少なくないのが現状である。ICI治療に対する治療応答性や予後を予測するための研究は数多く行われてきてKey words:がん、免疫チェックポイント阻害薬、免疫記憶、T細胞受容体、腫瘍浸潤リンパ球がん免疫記憶同系マウスモデルの確立と治療抵抗性機構解析への応用Establishment of anti-tumor T-cell memory murine models and analysis of resistance mechanisms to immune check point inhibitor treatment片山 量平*199
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