臨床薬理の進歩 No.46
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考  察謝  辞利益相反オートファジーを標的とした炎症性腸疾患に対する新規治療法の開発経口摂取の慣習があり、人体への投与は可能であり、これまで有害事象の報告はない。現在、切除腸管を用いたin vitro実験と並行して、有効成分の分析、人体投与時の安全性確認のため、臨床研究の準備を進めている段階である。 本研究では、オートファジーを誘導する化合物を同定し、その効果を腸炎モデルマウスおよびヒト腸管において検討した結果、SOが有望な候補であることが明らかとなった。DSS誘導性腸炎モデルマウスでは、SO投与により体重減少の抑制や腸管長の短縮抑制が確認された。病理組織学的評価においても炎症細胞浸潤が減少し、腸管構造が保持されていた。これらの結果は、SOが腸炎において重要な炎症抑制作用を持つことを示しており、その作用メカニズムとしてオートファジーの誘導が関与している可能性が示唆された。モデルマウスの研究から、マクロファージにおけるAtg7依存的オートファジーは、組織修復や再生促進に重要な役割を果たすことが先行研究から示されている。IBD患者では腸管CD14+ マクロファージが腸内細菌に反応してIL-6やIL-23を産生しやすいという報告があることから、新規治療薬開発の観点から、SOがヒトマクロファージにおいてこれらのサイトカイン産生を抑制するかどうかを検証することとした。また、ヒト腸管マクロファージにおいても、SOはオートファジーを誘導し、炎症部でのオートファゴソーム形成を促進することが示された。さらに、SO投与による他臓器への毒性はマウス実験で確認されず、安全性が示唆された。これらの結果を踏まえ、SOの腸炎制御効果をヒトにおいて検証するため、臨床研究を準備中である。 本研究で標的とした「オートファジー誘導」は、既存の薬剤とは異なる作用機序を有し、IBDに対する新規治療法として位置付けられる。オートファジーによる腸炎制御のメカニズムを解明することは、IBDの根治に繋がる可能性があり、その学術的意義は極めて高い。また、今後の臨床研究の進展が望まれる。ヒトにおける有効性と安全性が確認されれば、既存の薬剤で効果が乏しい症例の治療に加え、発症予防の観点からもアプローチできる新たな治療薬として応用できる可能性がある。 本研究を遂行するにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。また、本研究にご協力いただきました患者様に御礼申し上げます。 本研究に関して、開示すべき利益相反はありません。97

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