*1OginO Takayuki はじめに要 旨目的 本研究は、既存治療薬と作用機序が異なるオートファジー誘導を標的とし、炎症性腸疾患(IBD)に対する新規治療薬を開発することを目的とする。方法 オートファジー誘導物質をhigh-throughput assay systemで同定し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)投与により作製した腸炎モデルマウスにてその効果を検証する。また手術検体を用いて、ヒト腸管組織でも検証を行う。結果 食品由来および低分子化合物ライブラリからオートファジー誘導物質をスクリーニングし、生薬であるSanguisorba officinalis L.(SO)を同定した。腸炎モデルマウスでSOの炎症抑制効果と臓器毒性がないことを確認した。潰瘍性大腸炎(UC)手術症例の切除検体を用いた実験においても、SOによるマクロファージを介したオートファジー誘導と炎症抑制効果を認めた。結論 SOによるオートファジー誘導を介した腸炎制御が明らかとなった。今後、IBDに対する治療や予防への応用が期待される。 オートファジーとは、細胞がオートファゴソーム、オートリソソームを形成して自己成分を分解する機構であり、劣化タンパクや傷害された細胞内器官を除くことにより細胞恒常性を保っている。オートファジー関連遺伝子のノックアウトマウスは致死性を示すことから、IBDをはじめとする自己免疫疾患ではオートファジーが全く機能しないのではなく、機能低下を来している状態であると考えられる。マウスレベルでは、Atg5遺伝子やAtg16遺伝子の異常がパネート細胞を含む腸管上皮細胞やリンパ球の機能低下を引き起こすことが報告されているが4,5)、ヒト腸管を対象としたオートファジーに関して詳細に解析した報告はほとんどなく、臨床応用には未だ大きな課題が残っている。 再発を繰り返すIBD症例に対し何度も手術が必要Key words:炎症性腸疾患、オートファジー、マクロファージ、腸管粘膜固有層、潰瘍性大腸炎大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科オートファジーを標的とした炎症性腸疾患に対する新規治療法の開発Developing novel therapeutic approaches targeting autophagy for inflammatory bowel disease荻野 崇之*190 炎症性腸疾患(IBD)は潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病に代表され、消化管に強い炎症像を呈し、再燃・寛解を繰り返す原因不明のびまん性慢性炎症性疾患である1)。本邦の患者数は増加の一途を辿っており、若年発症が多いため、病勢コントロールの可否が就学、就労、出産、子育てなど社会的な問題に深く関わる2)。IBDの病因として食事形態、遺伝的因子、免疫学的因子など複合的な因子が挙げられているが、原因は未だ明らかとなっていない。2008年に大規模ゲノムワイド関連解析によりオートファジー関連遺伝子であるAtg16L1がクローン病の感受性遺伝子として同定され、IBD発症とオートファジーとの関連に注目が集まっている3)。
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