対象と方法図 1 膝関節からの軟骨組織の採取膝O Aの症例から採取した脛骨近位部の肉眼所見。実線で囲んだ領域から非変性部のOA軟骨を、破線で囲んだ領域から変性部のOA軟骨を採取した。文献3より引用、改変。を考えるとそのような因子は荷重に伴って軟骨から遊離する可能性が高い。このため本研究では OA軟骨に歩行の際に加わるのと同等のレベルの荷重を加え、それによって軟骨から遊離する因子について、滑膜細胞に対して uPA の発現を誘導する作用があるかをまず検討することとした。血漿と関節液中の uPA の濃度の比較 本検討は参加各施設の倫理審査委員会の承諾を得て行われ、検体の採取は患者本人、剖検例の場合は提供者のご家族から書面で承諾を得たうえで行われた。 本研究でははじめに関節液中の uPA が実際に関節内で産生されているかを知るために、関節液と同時に同一の被検者から採取された血漿についてuPA の濃度を計測し、関節液中の濃度と比較した。具体的には P 期の関節液を採取された症例のうち10 例において関節液を採取したのと同じ日のほぼ同時刻に血漿を採取していたため、これらの血漿検体について Luminex を用いて uPA の濃度を計測し、すでに計測されていた関節液中の濃度と比較した。この計測は Magnetic Luminex Performance Assay and Human Luminex Discovery Assay(R&D 84 著者は滑膜病変について様々な検討を行った結果、滑膜病変によって強い痛みが生じている膝OA の症例では滑膜性の疼痛が強い時期(P 期)と滑膜病変が軽快して痛みが軽減した時期(PR 期)の 2 時点で採取された関節液の比較から、PR 期に比べて P 期の関節液でウロキナーゼ(uPA)の濃度が高く、プラスミン活性の指標となるプラスミン・α2- プラスミンインヒビター複合体(PAP)の濃度も高値となること、しかしもう 1 つの重要なプラスミノゲン・アクチベーターである組織型プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)やプラスミ ノ ゲ ン・ ア ク チ ベ ー タ ー の 活 性 を 阻 害 す るPAI-1 の濃度は P 期と PR 期の間で有意な差が見られないことを見出していた。 これらの知見から P 期の OA 関節では関節液中で uPA が増加することによってプラスミン活性が誘導された可能性が考えられた。このため著者はついで P 期に関節液中で uPA 濃度が上昇する機序を探った。種々の細胞において uPA の発現は炎症性サイトカインによって誘導されることが知られている 2)。この知見に基づいて著者は P 期と PR 期の関節液について IL-1βと TNF-αの濃度を計測したが、これらのサイトカインの濃度はいずれも相当に低く、また P 期と PR 期の間で濃度にほとんど違いがなかったことから、P 期における uPA の増加が炎症反応によるものとは考えにくく思われた。 本研究では以上の研究の経緯から、P 期の OA関節において関節液中で uPA の濃度が上昇する機序を解明することを試みた。 本研究では OA 軟骨から遊離する因子に着目して解析を進めた。P 期は滑膜性の疼痛が強い時期であり、滑膜における変化が高度に起こっている状態と考えられる。したがって P 期に関節液中の uPA の濃度が上昇するのは滑膜において産生が亢進するためと考えられる。一方、OA では人工関節置換を行って変性軟骨を取り除くことによって滑膜病変が消退する。このことから、OA 軟骨から遊離する何らかの因子が滑膜に作用して uPA の発現を誘導する可能性が考えられる。軟骨の組織としての特性
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