臨床薬理の進歩 No.45
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* 1 KUMAGAI SHOGO * 2 TANEGASHIMA TOKIYOSHI 九州大学医学部付属病院 泌尿器科熊谷 尚悟*1  種子島 時祥*2はじめに要   旨目的 腫瘍免疫において、制御性 T(Treg)細胞は、CD8 陽性 T 細胞を含むエフェクター T 細胞を抑制する。これまで Treg 細胞上の PD-1 発現が免疫チェックポイント阻害治療抵抗性を生み出すことが知られていたが、PD-1 発現を制御する詳細なメカニズムは判明しておらず、本研究の目的とした。方法・結果 外科的手術により切除されたがん検体から腫瘍浸潤リンパ球を抽出し、フローサイトメトリーを用いて解析した。また、同時に次世代シークエンサーを用いてがん組織での遺伝子発現の網羅的解析を実施した。腫瘍浸潤制御性 T 細胞の PD-1 発現が高い腫瘍と低い腫瘍とを比較したところ、腫瘍浸潤制御性 T 細胞の PD-1発現が高い腫瘍で解糖系に関わる遺伝子発現が高いことが明らかとなった。結論 本研究により、我々は乳酸代謝が Treg 細胞上の PD-1 発現に強くかかわり、新規治療標的になりえることを示した。を開発することが必要とされている。我々は最近、腫瘍微小環境(TME)におけるエフェクター T 細胞と活性化Treg細胞であるエフェクターTreg(eTreg)細胞の Programmed cell death-1(PD-1)発現バランスが PD-1 遮断療法の有望な予測バイオマーカーとなることを報告した 12)。さらに、PD-1 陽性eTreg 細胞は特定の患者において PD-1 遮断後の病勢亢進に寄与する可能性があり 13)、治療現場においてもエフェクター T 細胞と Treg 細胞のバランスが重要であることが示された。我々の報告と同様に、いくつかの研究において ICB の臨床効果が異なる転移部位、特に肝転移病巣で異なることが実証されている。それらの検討では全身性免疫寛容を引き起こし、原発病巣と比較して ICB に対する反応が低くなる可能性があることが示唆されている 14〜17)。さらに、腫瘍細胞における特異的な遺伝子変化や発がん性Key words:がん免疫、免疫チェックポイント阻害剤、乳酸、肝転移、制御性 T 細胞国立がん研究センター 先端医療開発センター 免疫 TR 分野CD8 陽性 T 細胞と制御性 T 細胞のバランスに着眼した新規がん免疫治療戦略への応用Focusing on the balance between CD8-positive T cells and regulatory T cells for novel cancer immunotherapeutic strategies50 制御性 T(Treg)細胞は、免疫系の過剰活性化および異常活性化の制御を介して免疫恒常性の維持に不可欠である 1〜3)。腫瘍免疫において、Treg細胞は、がん細胞を殺すために重要な役割を果たすCD8 陽性 T 細胞を含むエフェクター T 細胞を抑制する 4,5)。したがって、腫瘍局所における CD8 陽性 T 細胞と Treg 細胞のバランスは、様々な種類のがんの予後にとって重要である 6〜8)。 近年、免疫チェックポイント阻害剤(ICB)に代表されるがん免疫療法の進歩は、複数のがん種においてがん治療のパラダイムシフトをもたらした 9〜11)。しかし、ICB による治療を受けた患者の半数以上が奏効しないことから、奏効者を選別するためのバイオマーカーを定義し、より有効ながん免疫療法

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