考 察子宮平滑筋肉腫に対するマルチオミクス解析による新たな治療標的の探索IPA ソフトウェアを用いた上流因子の解析の結果、pazopanib の IC50 が 4.7 ~ 56.4 μM であるのに対し、細 胞 周 期 関 連 酵 素(PLK1、CHEK1、CDK1、の IC50 は 1.0 ~ 72.8 nM であり、低濃度でも十分p < 0.001、図 2C)。また、同様に10 mg/kg の prexasertib(CHEK1 阻害剤)を週 2 回腹腔内投与することにの有意な変調が明らかになった(図 1C)。さらにULMS において、CDK1、AURKB、PLK1、CHEK1といった細胞周期を制御する主要な酵素の活性化が生じていることが示唆された。従って、このような細胞周期関連酵素の活性化は、ULMS の特徴であり、新規治療標的になり得ると考えた。 次に、SK-UT-1 細胞、SK-LMS-1 細胞、SKN細胞を用いて、細胞周期関連酵素に対する複数の阻害剤(低分子化合物)の抗腫瘍効果を検討した。これらの細胞に対する既存の分子標的薬であるAURKB など)を標的とした阻害剤はより高い効果を示し、ナノモーラーレベルで効果を発揮した。特に、PLK1 阻害剤である BI-2536 の IC50 は 0.6 ~183.8 nM であり、CHEK1 阻害剤である prexasertibな抗腫瘍効果を発揮した(図 2A)。また、これらの阻害剤は、細胞周期解析により G2/M 期制止を引き起こすことを確認した(図 2B)。 さらに、SK-UT-1 細胞を皮下移植したモデルマウスを用いた動物実験を行った。20 mg/kg のBI-2536(PLK1 阻害剤)を週 2 回腹腔内投与することにより、生理食塩液投与群と比べて有意に腫瘍増殖を抑制した(Welch’s t-test、移植後 5.5 週後時点 よっても、DMSO 投与群と比較して、有意に腫瘍増殖を抑制した(Welch’s t-test、移植後 6.5 週後時点 p < 0.01、図 2C)。従って、BI-2536、prexasertibともマウスモデルにおける抗腫瘍効果を示し、新規治療薬候補として期待される。マイクロ RNA-seq に基づく病態解明 RNA-seq に 使 用 し た 6 例 の ULMS と 3 例 のmyoma の RNA より small RNA ライブラリーを作成し、マイクロ RNA-seq を施行した。ヒートマップ解析によると、ULMS と myoma は異なるマイクロRNA プロファイルを示す傾向を認めた(図 3A)。しかし、mRNA の時と同様に、ULMS-3 は、myomaに近いプロファイルを有していた。次に具体的にどのようなマイクロ RNA が発現変動しているのか検証するために、ボルケーノプロットを作成した。その結果、ULMS で発現上昇しているマイクロ RNAを 53 個と、ULMS で発現低下しているマイクロRNA を 11 個同定した(図 3B)。これらのマイクロRNA の中で、ベースラインの発現量が高く、発現変動幅が大きいものを検索したところ、miR-10b-5p が候補として抽出された。 次に、SK-UT-1 細胞と SK-LMS-1 細胞を用いて、miR-10b-5p の機能解析を行った。miR-10b-5p のmimic を用いて、強制発現を行ったところ、miR-10b-5p を導入した細胞は Negative control を導入した細胞と比較して増殖を有意に抑制した(Welch’s t-test、SK-UT-1 細胞 p < 0.01、SK-LMS-1 細胞p < 0.05、図 3C)。また、miR-10b-5p は、コロニー形成能も有意に低下させた(Welch’s t-test、SK-LMS-1細胞 p < 0.001、図 3C)。従って、miR-10b-5p は、肉腫細胞に対して腫瘍抑制的に作用することが示された。 ULMS は、極めて予後不良であり、新たな治療薬開発が望まれている。本研究では、NGS 解析に基づきULMS の病態解明を行った。 第一に、RNA-seq とパスウェイ解析により、ULMS における細胞周期関連酵素の活性化が示唆された。つまり、ULMS は細胞分裂の速度が速く、増殖が速いことが示唆され、臨床的な悪性度の高さと合致する結果である。そして、それらの酵素に対する複数の阻害剤の効果を、in vitro で検証したところ、いずれも高い効果を示した。既報においても、ULMS における AURKA の重要性や、その阻害剤の優れた抗腫瘍効果を示した報告がある 6)。さらに AURKA に対する臨床試験も施行されたが、残念ながらその有用性は示されなかった 7)。本研究に45
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