臨床薬理の進歩 No.45
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* 1 HAYASHI HISAMITSU 林 久允*1 小児肝臓難病の救命に資する肝保護療法薬の開発Development of Hepatoprotective Drugs for Pediatric Intractable Liver Diseasesはじめに要   旨東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室目的 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症 1 型(PFIC1)は、ATP8B1 を原因遺伝子とする常染色体潜性遺伝形式の超希少疾患である。本疾患は小児期で最も重篤な肝疾患であり、現在までに治療法は確立していない。著者らは、PFIC1 モデルマウスを作出し、本マウスの肝病変がコリン代謝物群の欠乏に起因することを独自に見出した。本研究では、基礎研究から取得した病態発症機序に関し、PFIC1 患児への外挿可能性を検討するとともに(項目 1)、PFIC1 モデルマウスに対するコリン補充療法の有効性を評価する(項目 2)。即ち、PFIC1 の肝保護療法の臨床開発に向けたエビデンス収集が本研究の目的である。方法 (項目 1)PFIC1 患児(22 名)から診療情報、生体試料を収集した。コリン及びその代謝物群の一斉分析系を LC-MS/MS にて確立し、当該化合物の患者血漿中濃度を測定した。(項目 2)出産後の母マウスに離乳時まで1% コリン補充食を給餌し、離乳時に仔マウス(PFIC1 モデルマウス及びコントロール同腹仔)を解剖した。解剖時に収集した生体サンプルを用いて血液生化学検査、肝組織病理解析を実施した。結果 (項目 1)PFIC1 症例の血漿中におけるコリン及びその代謝物ベタイン、ジメチルグリシンの濃度は、肝疾患既応歴のない対照患児、及び他の小児胆汁うっ滞性疾患児に比べて有意に低かった。(項目 2)コントロール食を給餌された母マウス由来の PFIC1 モデルマウスでは、肝障害マーカー AST、ALT が異常高値を示し、脂肪肝炎の肝病理所見を呈した。一方、1% コリン補充食を給餌された母マウス由来の PFIC1 モデルマウスは、血液生化学検査値、肝病理所見に正常化していた。結論 コリン補充療法は、PFIC1 の肝保護療法として臨床開発の検討に資する。 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症 1 型(PFIC1)は、ATP8B1 を原因遺伝子とする常染色体潜性遺伝形式の超希少疾患である 1)。本疾患は小児期で最も重篤な肝疾患として知られており、指定難病に認定されている(指定難病 338)。生後まもなくから始まる遷延性黄疸により顕在化するが、現状では治療法が確立していないため、患児は思春期前には肝硬変へと進行し、致死性の経過をたどる 2〜4)。また、本疾患では胆汁うっ滞性の難治性そう痒による重度の睡眠障害を患うため、生存期間中の患児、保護者の生活の質も極めて悪い。保護者の自殺例も報告されている。そのため、PFIC1 に対する新規治療法の開発が切望されている。しかしながら、本疾患の原因遺伝子である ATP8B1(リン脂質フリッパーゼをコード)の異常が、本病態の発症・進展を来す機序が未解明なため、治療法開発の実現Key words:小児、肝疾患、難病、脂肪肝、コリン35

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