臨床薬理の進歩 No.45
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対象と方法小児生体肝移植後の急性拒絶反応を抑制するためのメチルプレドニゾロンの時間治療のプロトコールは、自治医科大学附属病院臨床研究等倫理審査委員会および山陽小野田市立山口東京理科大学・人を対象とする医学系研究に関する倫理審査委員会にて審査を受け、施設長から実施の許可を得て実施した(臨 B16-013, 22004)。また、本臨床研究の内容を大学病院医療情報ネットワークに登録した(UMIN000015793)。移植手術の前に、対象者の代諾者に対して文書を用いて研究内容に関する説明を行い、書面による同意を得た後、研究を行った。臨床研究の概要 本研究は、無作為割付けオープンラベル並行群間比較法で実施した。移植手術終了後、通常の診療に従いバイタルサインの確認、血液検査(血算、凝固能、生化学・電解質、血液ガス)、尿検査、腹水検査、腹部超音波エコー検査を行った。また、mPSL以外の併用薬に関しては制限を設けず、通常の治療通りに行った。検査結果から急性拒絶反応が疑われた場合は肝生検を実施し、急性拒絶反応の有無を病理組織学的に評価した。急性拒絶反応が発現した場合には試験治療を中止し、mPSL パルス治療(20 mg/kg を 3 日)を開始した。mPSL の投与時刻および割付け mPSL を 1 日 1 回 8 時 に 投 与 す る 朝 投 与 群、あるいは 20 時に投与する夜投与群に分けた。投与群の割付けは、乱数表を用いて無作為割付けを行った。層別化因子は、手術前リツキシマブ投与の有無とした。 mPSL の夜投与は、急性拒絶反応の発現率が高い手術後 14 日目までとした。15 日目以降の mPSL投与は、夜投与群では投与時刻を 1 日ごとに 16 時頃、12 時頃さらに 8 時頃へと変更し、その後は 8 時投与を継続した。朝投与群では、試験期間中は朝投与を継続した。免疫抑制療法 免疫抑制療法として、mPSL とタクロリムスの 発現率は約 35% である 1,2)。急性拒絶が発現した場合には、ステロイドパルス療法を行うなどにより免疫抑制を強化している。その結果、感染症を合併することが多く、在院期間も延長することがある。したがって、急性拒絶の発現を抑制することは、移植後の患児の予後に関する重要な課題である。 一般に副腎皮質ホルモン剤の投与は、内因性副腎皮質ホルモン分泌の日内変動に合わせて早朝であることが多い。一方、血液中の白血球分画にも日内変動が認められ、リンパ球数は夜間に高値となる 3,4)。従って、夜間の方が日中よりもリンパ球の浸潤を来しやすいものと思われる。 ラットを用いた副腎皮質ホルモン剤の時間治療研究が自治医科大学で実施され、その成績が次のように報告されている 5)。同種異系・異所性の移植手術を行い、副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン)のピーク直前)あるいは 4 時(ラットの休息期前、内因性ステロイド分泌が低値)に投与した。コントロール群(未治療群)における移植臓器の平均生存日数は 5.8 日であった。一方、活動期前にプレドニゾロンを投与したラットでは、移植臓器の平均生存日数は 7.3 日であり、休息期前に投与したラットでは移植臓器の平均生存日数は 8.4 日であった。これらより、ヒトでは副腎皮質ステロイド剤を夕方~夜に投与した方が、急性拒絶反応予防効果は大であると考えられる。 本研究は、小児肝移植後の急性拒絶反応発現率の減少および安全性に及ぼす mPSL 投与時刻の影響を明らかにすることを目的とした。試験のスケジュール 自治医科大学附属病院・移植外科にて生体肝移植をうける 15 歳未満の小児患者を対象として臨床研究を行った。除外基準は、劇症肝炎や緊急に移植手術を行う症例、プロトコール通りの免疫抑制療法が実施できないと判断される症例とした。臨床研究を 16 時(ラットの活動期前、内因性ステロイド分泌13

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