結 果統計解析 タンパク質発現レベルの相関性は GraphPad Prism を用いた線形回帰分析によって解析した。細胞外小胞及び細胞膜画分における輸送体タンパク質発現プロファイルの解明 BeWo 細胞の細胞上清から回収した細胞外小胞は、平均粒子径 144.0 ± 4.8 nm、ゼータ電位 -35.1 ±1.0 mV であった。マウス血漿中から回収した細胞外小胞は、平均粒子径 80.8 ± 0.8 nm、ゼータ電位-14.8 ± 0.4 mV であった。以上の結果から、BeWo細胞が分泌する細胞外小胞、及びマウス血中を循環する細胞外小胞は、主にエクソソームであることが示された。網羅的プロテオミクス解析から、BeWo細胞由来の細胞外小胞を構成する 3,024 種類のタンパク質が同定され、そのうち 2,711 種類のタンパク質は細胞膜画分で同定された分子と共通していた。エクソソームのマーカー分子群(tumor susceptibility gene 101 protein/TSG101、CD63、CD81)及び機能未知の分子を含む 3 種類の内在性レトロウイルス由来エンベロープタンパク質が、細胞膜画分と比較して濃縮的に発現していることが示された。さらに本研究では特に、トランスポーターに着目し、細胞外小胞(図 4A)と細胞膜画分(図 4B)において共通して発現する 60 種類の分子とその相対的な発現レベルが明らかになった。ヒト胎盤関門モデル細胞(BeWo 細胞・JEG-3 細胞)の輸送体タンパク質発現プロファイルの相違性の解明 胎盤関門のトランスポーター研究には、BeWo細胞と JEG-3 細胞が用いられてきたが、両細胞間でのトランスポーター機能の同等性や相違性は不明であった。本解析では、網羅的プロテオミクス解析によって、各細胞の細胞膜画分に発現するトランスポーター分子を同定し、発現レベルの違いを明らかにした。具体的には、BeWo 細胞と136細胞を単層培養し、試験化合物と 37 ℃で規定時間インキュベーションした後、氷冷した生理バッファーを用いて洗浄した。細胞内に蓄積した試験化合物量の算出には、液体クロマトグラフィーを接続した質量分析装置(Q Exactive、Thermo Scientific 社)、蛍光プレートリーダー又は、フローサイトメーターを用いた。大型中性アミノ酸トランスポーター(LAT1/SLC7A6 及び LAT2/SLC7A8)の輸送機能解析には、重水素化したトリプトファン(L-トリプトファン -d5)を基質として用いた。本研究において BeWo 細胞で初めて同定された輸送体major facilitator superfamily domain containing 7c(Mfsd7c)とそのサブタイプ Mfsd2a の輸送機能について、それぞれ zinc mesoporphyrin IX(ZnMP)6)、及び PKH67 を用いて蛍光標識した BeWo 細胞由来の細胞外小胞 7)を基質として輸送活性を評価した。輸送体タンパク質の絶対定量系の構築 輸送体タンパク質の絶対発現量の算出には、標的タ ン パ ク 質 絶 対 定 量 法(quantitative Targeted Absolute Proteomics, qTAP)8)を用いた。定量標的とした輸送体タンパク質について、in silico による定量標的ペプチド配列の選択を行い、設計した定量標的ペプチドの標品を用いて検量線を作成した。解析試料は、組織溶解液をトリプシン及びリシルエンドペプチダーゼで消化してペプチド断片とし、内標準として安定同位元素標識した標的ペプチドを規定量添加した。液体クロマトグラフィー(Nano-liquid chromatography system, Eksigent NanoLC Ultra 2D、Sciex 社)を連結した質量分析装置(TripleTOF5600、Sciex 社)を用いて試料を分析し、予め作成した検量線から絶対発現量を算出した。測定対象とする試料は、ヒト凍結脳組織から単離した脳微小血管画分を用いた 9)。ヒト凍結脳組織からの脳微小血管画分の精製は、関係機関の倫理委員会の承認に基づき、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針に則り実施した。
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