臨床薬理の進歩 No.45
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結  語謝  辞利益相反肺癌におけるPembrolizumabの治療効果予測の網羅的ゲノムバイオマーカー探索研究FoundationOne などの比較的大きな遺伝子パネルを治療前に実施することは保険診療上、不可能である。そのため、OMC を実地臨床で活用することには制度上でのハードルが存在するが、PD-1 阻害剤をはじめとする免疫療法の新たなバイオマーカーとして期待される。本研究で用いた Pembrolizumab を用いた悪性黒色腫での研究では、TMB と腫瘍内浸潤リンパ球(tumor infiltrative lymphocytes:TIL)が同薬剤の治療効果予測のマーカーになるという報告がある 9)。本研究で検討した OMC と TIL はそれぞれTMB、TIL のサロゲートマーカーといえるかもしれない。 本研究で用いた TSO500 は 2019 年に米国食品医薬品局(FDA)からブレイクスルーデバイスの指定を受けた遺伝子パネルで、523 個の遺伝子の全エクソンシーケンスが可能である 5)。ライブラリー調製時に、低頻度バリアントの識別を可能にする分子バーコード法を活用することで、バリアントアリル頻度の低い変異バリアントも検出できるだけでなく、エラーの発生も抑制されるので、高い解析特異度が得られることが特色である。こうした特色を反映して TSO500 は現在、臨床導入されているがん遺伝子パネルである FoundationOne(ロシュ社)パネルよりもより正確に TMB を反映できるという報告もなされている 10)。また本研究で使用するのはホルマリンによる固定を行ったパラフィン包埋固定検体(FFPE)であるが、FFPE から抽出されたDNA には脱アミノ反応、酸化修飾などのアーティファクトが加わることが知られている。TSO500ではイルミナ社で開発された分子バーコード法と解析プログラム(TSO500 付属解析ソフト)によりこれらのアーティファクトを除去することで、FFPE検体から抽出された低品質 DNA でも正確なシーケンス結果を得られる。TSO500 や FoundationOneなどのサイズの比較的大きな遺伝子パネルでの解析では腫瘍含有率の評価が重要であり、凍結検体よりも FFPE 検体を用いて、腫瘍含有率を厳密に評価する必要があると思われる。その点でも、本研究で用いた TSO500 パネルではエラー除去において高い性能を有しており、OMC の評価において役立った可能性が考えられる。 本研究における制限としては、第一に単一のコホートの研究であることが挙げられる。当院でのデータであることから、その効果については比較的精度の高いデータを得ることが可能であったが、本研究で検討された OMC + PD-L1 TPS を検証するために別の独立コホートでの検討が必要である。第二に OMC の評価は今回の検討では OncoKBを使用したが、その他のデータベースを用いたannotation でも同様の結果が得られるのか検証が必要である。第三に本研究でのシーケンスは自施設で行ったものであり、その精度評価については外部組織の検証を受けていない。今後、外部の大規模データベースを用いた独立の評価が求められる。 OMC と PD-L1 TPS を合わせた複合マーカーにより、高い精度での PD-1 阻害剤の効果予測が可能になる。 本研究を遂行するにあたり、研究助成をいただきました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に深謝申し上げます。 本研究に関して、開示すべき利益相反はありません。99

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