考 察ヌクレオカプシドの輸送とウイルス粒子の出芽における VP30 の役割 NCLS 輸送における VP30 の役割について、リン酸化変異体を用いてライブセルイメージング解析を行った。最大強度投影図(シグナルを一枚にまとめた画像)を比較したところ、リン酸化の状態にかかわらず NCLS の輸送パターンに変化は認めなかった。このことは動態解析ソフトである Imarisを用いた解析からも裏付けられた。以上から、VP30 のリン酸化が NC の輸送特性を大きく変えないことがわかった。論文投稿・査読中のため、図を含めた詳細情報については本稿では割愛させて頂く。 続いて、VP30 のリン酸化が VLP の出芽に与える影響を解析した。その結果、VP30 のリン酸化状態により VLP の出芽効率は変わらなかった(データ未発表)。これらの結果から、VP30 のリン酸化状態はウイルス粒子の成熟・出芽の前提条件ではないことが示唆された。 本研究で、長らく不明であった VP30 をリン酸化するキナーゼ SRPK1 を同定し、実際に SRPK1により VP30 のリン酸化状態が制御されることを明らかにした。また SRPK1 認識モチーフに変異を加えた VP30 変異体では、リン酸化が著しく制限された。この VP30 変異体を発現する全長組換えウイルスを作出したところ、複製能力が著しく減弱していた。一方で SRPK1 の過剰発現によりウイルスの増殖が阻害されたことから、EBOV の効率良い増殖のためには、リン酸化のバランスが重要であることが示唆された。これまでに宿主脱リン酸化酵素 PP2A の活性を阻害すると、VP30 の脱リン酸化が抑制され、ウイルスの増殖が抑えられることが報告されている 9)。我々の研究成果を合わせて考えると、PP2A と SRPK1 がバランスよくVP30 のリン酸化を調整することで、EBOV の一次転写および二次転写を制御し、ウイルスの増殖をプロテインキナーゼSRPK1を介したエボラウイルス転写・複製制御機構の解明最適化していることが示唆された。今後、マウスなど動物モデルを用いて、SRPK1 を介する抗EBOV 療法の病原性に対する効果を検証したい。 VP30 は、封入体(核周囲に形成されるヌクレオカプシド合成の場)内では PP2A により脱リン酸化されているが、放出されたウイルス粒子内ではVP30 はリン酸化されている 10)。PP2A は NP により封入体にリクルートされ、その結果、VP30 が脱リン酸化されると考えられる。脱リン酸化されるとオリゴマー化が進むと共に、VP30 と RNA の結合が促進する 11)。したがって、オリゴマー化は VP30をキナーゼの結合から守り、効率的な二次転写を促すと考えられる。一方で、宿主キナーゼであるSRPK1 は VP30 と直接相互作用し、封入体の内部で VP30 のリン酸化を促進する。リン酸化されたVP30 は、NP-VP30 相互作用により NC に選択的に取り込まれると考えられ(後述)、その結果、EBOV ゲノムの一次転写が効率的に行われるのではないかと考えられた 12)。 転写・複製以外の過程における VP30 可逆的リン酸化の役割についても検討した。本研究により、VP30 は、NP、VP35、VP24 が形成する NCLS の周辺領域に局在することが明らかになった。EBOVの VP30 は、NC の構成要素である VP35 と NP に結合することが報告されている 8)。さらに我々の研究により、EBOV のポリメラーゼタンパク質 L は、インフルエンザウイルスのポリメラーゼ複合体と同様で、NC の一箇所に限局することがわかった(データ未発表)。L と VP35 タンパク質を含むポリメラーゼ複合体は、RNA 依存的な VP30-VP35相互作用を介して脱リン酸化された VP30 と結合していると考えられる。一方で、VP30 はリン酸化されると NP との結合が強まり、脱リン酸化されると弱まることが報告されている 8)。リン酸化の有無にかかわらず VP30 は、NCLS の表面に広く分布していたことから、VP30 の NC への結合はNP-VP30 間の相互作用を介して行われることが示唆された。これらの結果は、リン酸化によってNP-VP30 間 の 相 互 作 用 が 強 く な り、VP30 が83
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