結 果3)統計解析 統計解析には GraphPad PRISM を用いた。多群間の比較は ANOVA を、二群間の解析には student t 検定を用いた。統計的に有意な差はアスタリスクで示した(*; p < 0.05; **; p < 0.01; ***; p < 0.001, ****; p< 0.0001)。VP30 を 特 異 的 に リ ン 酸 化 す る 宿 主 キ ナ ー ゼSRPK1 の同定 これまで VP30 をリン酸化するキナーゼが同定できなかった理由として、細胞内には 500 以上のキナーゼがあるため、網羅的なスクリーニングが難しかったことが挙げられる。そこで本研究ではリン酸化の状態が異なる VP30 変異体を複数構築し、リン酸化モチーフを持つ VP30 と特異的に相互作用するキナーゼを質量分析法で選別した。まずはin vitro、続いて培養細胞を用いて順次スクリーニングを行うことで段階的に候補を絞り込んだ。これらのスクリーニングから、世界に先駆けて VP30をリン酸化するセリン・アルギニンプロテインキナーゼ SRPK1 を同定することに成功した(図 3)。SRPK1 による EBOV 転写制御 EBOV の転写制御因子である VP30 は脱リン酸化により二次転写活性が亢進し、リン酸化により二次転写活性が低下することがわかっている 8)。本研究では、SRPK1 が VP30 をリン酸化することで転写活性がどう変わるか、レポーターアッセイで評価した。その結果、SRPK1 を過剰発現させると、細胞内の VP30 は強制的にリン酸化修飾を受 け る た め 二 次 転 写 活 性 は 低下した。一方でSRPK1 阻害剤 SRPINO340 を添加すると、部分的に二次転写活性が回復した。これまで VP30 がリン酸化される理由は不明であったが、本研究で一次転写を特異的に評価するアッセイ系を用いて、VP30 のリン酸化が一次転写を促進する役割があることを解明した(図 4)。プロテインキナーゼSRPK1を介したエボラウイルス転写・複製制御機構の解明で VP30 がリン酸化修飾される意義を、キナーゼ発 現 細 胞 や キ ナ ー ゼ 阻 害 剤 で 処 理 し た 細 胞 にあるフィリップ大学マールブルグの BSL(bio-safety level)-4 実験施設で行った 6)。ウイルスの生活環EBOV を感染させて評価した。 エボラウイルスを用いた実験はドイツ国の法令に基づき、フィリップ大学マールブルグの規則を遵守し、同大学が有する BSL-4 実験施設で行われた。2)ヌクレオカプシド形成・輸送過程 NC の免疫電子顕微鏡マッピングによると、NP、VP35、VP24 は中央からこの順に配置しており、ヌクレオカプシド様構造(NCLS)のコアを形成している 7)。しかし NCLS における VP30 の位置は不明であった。そこで NC 形成と・輸送におけるVP30 の役割、そして VP30 リン酸化の役割を解明するために、免疫電子顕微鏡解析及びライブセルイメージング顕微鏡解析を行った。免疫電子顕微鏡解析 BSL-4 内で大量培養したウイルス検体を精製し、弱い界面活性剤で処理後に不活化し、BSL-4 外部へ搬出した。この検体に VP30 特異抗体を反応させて免疫電子顕微鏡解析を行った。続いて NC の形成・成熟過程における VP30 リン酸化の役割を明らかにするために、ウイルス様粒子(VLP)に各 VP30変異体を取り込ませて、その分布・局在を免疫電子顕微鏡で解析した。ライブセルイメージング顕微鏡解析 リン酸化状態の異なる VP30 変異体の蛍光融合タンパク質を構築し、NP、VP35、VP24 と共発現させることで、NCLS の細胞内動態を観察した 4)。トランスフェクション 20 時間後からライブセルイメージング顕微鏡解析を行い、リン酸化に伴うNCLS 動態の変化について画像解析ソフト Imarisを用いて比較解析した。79
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