臨床薬理の進歩 No.43
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結  果あるフィリップ大学マールブルグのBSL(bio-safety level)-4実験施設で行った6)。ウイルスの生活環でVP30がリン酸化修飾される意義を、キナーゼ発現細胞やキナーゼ阻害剤で処理した細胞にEBOVを感染させて評価した。 エボラウイルスを用いた実験はドイツ国の法令に基づき、フィリップ大学マールブルグの規則を遵守し、同大学が有するBSL-4実験施設で行われた。2)ヌクレオカプシド形成・輸送過程 NCの免疫電子顕微鏡マッピングによると、NP、VP35、VP24は中央からこの順に配置しており、ヌクレオカプシド様構造(NCLS)のコアを形成している7)。しかしNCLSにおけるVP30の位置は不明であった。そこでNC形成と・輸送におけるVP30の役割、そしてVP30リン酸化の役割を解明するために、免疫電子顕微鏡解析及びライブセルイメージング顕微鏡解析を行った。免疫電子顕微鏡解析 BSL-4内で大量培養したウイルス検体を精製し、弱い界面活性剤で処理後に不活化し、BSL-4外部へ搬出した。この検体にVP30特異抗体を反応させて免疫電子顕微鏡解析を行った。続いてNCの形成・成熟過程におけるVP30リン酸化の役割を明らかにするために、ウイルス様粒子(VLP)に各VP30変異体を取り込ませて、その分布・局在を免疫電子顕微鏡で解析した。ライブセルイメージング顕微鏡解析 リン酸化状態の異なるVP30変異体の蛍光融合タンパク質を構築し、NP、VP35、VP24と共発現させることで、NCLSの細胞内動態を観察した4)。トランスフェクション20時間後からライブセルイメージング顕微鏡解析を行い、リン酸化に伴うNCLS動態の変化について画像解析ソフトImarisを用いて比較解析した。3)統計解析 統計解析にはGraphPad PRISMを用いた。多群間の比較はANOVAを、二群間の解析にはstudent t検定を用いた。統計的に有意な差はアスタリスクで示した(*; p < 0.05; **; p < 0.01; ***; p < 0.001, ****; p< 0.0001)。VP30を特異的にリン酸化する宿主キナーゼSRPK1の同定 これまでVP30をリン酸化するキナーゼが同定できなかった理由として、細胞内には500以上のキナーゼがあるため、網羅的なスクリーニングが難しかったことが挙げられる。そこで本研究ではリン酸化の状態が異なるVP30変異体を複数構築し、リン酸化モチーフを持つVP30と特異的に相互作用するキナーゼを質量分析法で選別した。まずはin vitro、続いて培養細胞を用いて順次スクリーニングを行うことで段階的に候補を絞り込んだ。これらのスクリーニングから、世界に先駆けてVP30をリン酸化するセリン・アルギニンプロテインキナーゼSRPK1を同定することに成功した(図3)。SRPK1によるEBOV転写制御 EBOVの転写制御因子であるVP30は脱リン酸化により二次転写活性が亢進し、リン酸化により二次転写活性が低下することがわかっている8)。本研究では、SRPK1がVP30をリン酸化することで転写活性がどう変わるか、レポーターアッセイで評価した。その結果、SRPK1を過剰発現させると、細胞内のVP30は強制的にリン酸化修飾を受けるため二次転写活性は低下した。一方でSRPK1阻害剤SRPINO340を添加すると、部分的に二次転写活性が回復した。これまでVP30がリン酸化される理由は不明であったが、本研究で一次転写を特異的に評価するアッセイ系を用いて、VP30のリン酸化が一次転写を促進する役割があることを解明した(図4)。79

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