方 法図 1 エボラウイルスの感染細胞内におけるライフサイクル本研究では、ウイルス特異的転写制御因子であるVP30の可逆的リン酸化が持つ機能とその作用機序について、ライフサイクルの各プロセスに注目して解明することを目指した。プロテインキナーゼ SRPK1 を介したエボラウイルス転写・複製制御機構の解明行われる。同時に二次転写が行われ、十分な量のウイルスタンパク質が提供される。転写・複製過程はウイルスタンパク質封入体で行われるが 2)、この過程では VP30 の可逆的リン酸化が必須であることがわかっている 3)。しかし、VP30 のリン酸化がどの様に制御されるか詳細な分子機構はわかっていなかった。 EBOV は一本鎖(-)鎖 RNA ウイルスで、転写・複製の鋳型を提供する NC は、5 つのウイルスタンパク質(ヌクレオプロテイン(NP)、ポリメラーゼ L、ポリメラーゼ共因子 VP35、転写制御因子 VP30、そしてマイナーマトリックスプロテイン VP24)から形成される 1)。VP30 タンパク質の脱リン酸化がウイルスゲノムの転写を促進することがわかっており、脱リン酸化酵素として PP1/PP2A が既に同定されていた 3)。一方で VP30 をリン酸化する宿主キナーゼはわかっておらず、VP30 がリン酸化修飾されることの意義も不明であった。そこで本研究では、転写制御因子 VP30 をリン酸化する宿主細胞キナーゼを同定し、VP30 のリン酸化を介して EBOV の増殖を制御する新しい抗 EBOV 治療法を構築することを目標とした。 また転写・複製以降の過程について、我々は前駆研究で EBOV の NC 形成・輸送機構を解明するために、⾮感染性のライブセルイメージングシステムを構築した 4)。このシステムと各種電子顕微鏡解析を用いて、VP30 が NC にどの様に取り込まれるか、その分子機構の解明を試みた。 以上の研究を通して、VP30 リン酸化を介したEBOV 新規治療薬の基盤を構築し、「EBOV の死亡率を軽減し、治療成績を改善すること」、また感染者の体内ウイルス量を制御することで「二次感染のリスクを低減すること」が期待される。 本研究では、転写・複製過程とそれ以降の過程について、それぞれ VP30 の可逆的リン酸化の役割を解明することを目指した(図 2)。 転写・複製過程ではキナーゼが VP30 をリン酸化する分子機構を解明し、この過程を制御することでEBOV の増殖を抑制する方法の基盤を構築したいと考えた。1)転写・複製過程リン酸化変異体の構築 VP30 は N 末の 6 セリン残基が主たる被リン酸化部位として知られている。この部位に変異を導入することで、リン酸化の状態が異なる VP30 変異体プラスミドを複数作出した。またキナーゼが認識77
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