臨床薬理の進歩 No.43
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方  法行われる。同時に二次転写が行われ、十分な量のウイルスタンパク質が提供される。転写・複製過程はウイルスタンパク質封入体で行われるが2)、この過程ではVP30の可逆的リン酸化が必須であることがわかっている3)。しかし、VP30のリン酸化がどの様に制御されるか詳細な分子機構はわかっていなかった。 EBOVは一本鎖(-)鎖RNAウイルスで、転写・複製の鋳型を提供するNCは、5つのウイルスタンパク質(ヌクレオプロテイン(NP)、ポリメラーゼL、ポリメラーゼ共因子VP35、転写制御因子VP30、そしてマイナーマトリックスプロテインVP24)から形成される1)。VP30タンパク質の脱リン酸化がウイルスゲノムの転写を促進することがわかっており、脱リン酸化酵素としてPP1/PP2Aが既に同定されていた3)。一方でVP30をリン酸化する宿主キナーゼはわかっておらず、VP30がリン酸化修飾されることの意義も不明であった。そこで本研究では、転写制御因子VP30をリン酸化する宿主細胞キナーゼを同定し、VP30のリン酸化を介してEBOVの増殖を制御する新しい抗EBOV治療法を構築することを目標とした。 また転写・複製以降の過程について、我々は前駆研究でEBOVのNC形成・輸送機構を解明するために、⾮感染性のライブセルイメージングシス図1 エボラウイルスの感染細胞内におけるライフサイクル本研究では、ウイルス特異的転写制御因子であるVP30の可逆的リン酸化が持つ機能とその作用機序について、ライフサイクルの各プロセスに注目して解明することを目指した。プロテインキナーゼSRPK1を介したエボラウイルス転写・複製制御機構の解明テムを構築した4)。このシステムと各種電子顕微鏡解析を用いて、VP30がNCにどの様に取り込まれるか、その分子機構の解明を試みた。 以上の研究を通して、VP30リン酸化を介したEBOV新規治療薬の基盤を構築し、「EBOVの死亡率を軽減し、治療成績を改善すること」、また感染者の体内ウイルス量を制御することで「二次感染のリスクを低減すること」が期待される。 本研究では、転写・複製過程とそれ以降の過程について、それぞれVP30の可逆的リン酸化の役割を解明することを目指した(図2)。 転写・複製過程ではキナーゼがVP30をリン酸化する分子機構を解明し、この過程を制御することでEBOVの増殖を抑制する方法の基盤を構築したいと考えた。1)転写・複製過程リン酸化変異体の構築 VP30はN末の6セリン残基が主たる被リン酸化部位として知られている。この部位に変異を導入することで、リン酸化の状態が異なるVP30変異体プラスミドを複数作出した。またキナーゼが認識77

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