臨床薬理の進歩 No.43
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*1 HINOI EIICHI 檜井 栄一*1 はじめに要   旨 グリオーマは悪性脳腫瘍の約80%を占め、腫瘍の遺伝子変異と組み合わせたWHO分類により4つの悪性度GradeⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳに分類される。Grade Ⅳ(glioblastoma, GBM)は最も悪性度が高く予後不良(5年生存率:5.1%)の致死性がんである1)。手術による可及的摘出、術後の放射線治療および従来の化学療法を組み合わせた集学的治療によっても、ここ約半世紀もの間、著明な予後の改善は認められず、根本的な治療法開発が望まれている。 近年、「がんの病態」と「がん幹細胞の幹細胞性」に緊密な関連性が示されている。がん幹細胞は自己複製能・多分化能と、薬剤耐性を有しており、治療後に残存したがん幹細胞が、がんの再発や転移に関与することが報告されている2)。GBMの発症・岐阜薬科大学 機能分子学大講座 薬理学、岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科進展においても、グリオーマ幹細胞(Glioma stem cells, GSC)の幹細胞性維持機構が重要な役割を担うことが示されている。さらにGSCは、GBMの治療抵抗性と再発率の高さ、浸潤、免疫回避、腫瘍血管新生、腫瘍関連マクロファージの浸潤・集積に寄与することが報告されている3)。従って、GSCを標的とした治療戦略は、GBMの根治を達成する革新的な治療法の開発に繋がることが期待される。 タンパク質分解系のE3ユビキチンリガーゼSMAD specific E3 ubiquitin protein ligase 2(SMURF2)は、細胞の増殖・分化・生存など様々な生理学的機能を担っている。SMURF2のE3ユビキチンリガーゼ活性は、SUMO化やメチル化、リン酸化などの翻訳後修飾により調節される4)。これまでに著者らはExtracellular signal-regulated kinase 5(ERK5)によるSMURF2の249番目のスレオニン(SMURF2Thr249)Key words:がん幹細胞、グリオーマ、SMURF2Thr249、リン酸化修飾、TGF-β受容体 膠芽腫(Glioblastoma, GBM)は、根本的な治療法開発が望まれる予後不良の脳腫瘍である。近年、がんの 病態とがん幹細胞の緊密性が示され、GBMの発症・進展でもグリオーマ幹細胞(Glioma stem cell, GSC)が重要な 役割を担う。著者らは以前、SMURF2の249番目のスレオニン残基(SMURF2Thr249)のリン酸化状態が、間葉系 幹細胞の幹細胞性維持に重要であることを見出した。そこで本研究では、in vitro解析(ヒトGSC)、in vivo解析 (GBMモデルマウス)、ヒト病理検体の解析により、SMURF2およびSMURF2Thr249のリン酸化状態がGSCの幹細胞性・腫瘍形成能の維持と病態の悪性化進展に重要であることを明らかにした。本研究成果は、GSCのSMURF2Thr249のリン酸化状態が、GSCを標的とした新規創薬標的となる可能性を示唆するものである。58SMURF2 phosphorylation at Thr249 modifies the stemness and tumorigenicity of glioma stem cells by regulating TGF-β receptor stabilitySMURF2Thr249のリン酸化修飾はTGF-β受容体の分解制御を介しグリオーマ幹細胞の幹細胞性と腫瘍形成能を調節する

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