臨床薬理の進歩 No.43
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*1 IMAMURA YU *2 HARAGUCHI IKUMI *3 WATANABE MASAYUKI 今村 裕*1  原口 郁実*2 渡邊 雅之*3はじめに要   旨がん研有明病院 消化器外科がん研究会 CPMセンターがん研有明病院 消化器外科ゲノムのhypermutationが多く、ネオ抗原を産生する。その結果、生体は腫瘍を異物として認識しやすくなり、抗腫瘍免疫が発動され、腫瘍内にリンパ球を浸潤させて著明な防御(=抗腫瘍効果)を図る。一方の腫瘍側は、腫瘍免疫チェックポイントタンパクを発現させ、腫瘍免疫を回避する。このようなメカニズムをもつMSI-H腫瘍は免疫原性腫瘍であるとされ、その免疫回避機構の要となっている免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体薬(ニボルマブおよびペムブロリズマブ)が著効する腫瘍として注目されるようになった。 一方MSI-Lに関しては、免疫原性腫瘍か否かをはじめ、その臨床病理学的・分子生物学的特徴が明らかになっておらず、MSSと同等に扱われることがほとんどである。 食道胃接合部腺癌は、肥満による逆流性食道炎とKey words:マイクロサテライト不安定性、食道腺癌、食道胃接合部腺癌、免疫治療、腫瘍微小環境 MSIは、高レベルマイクロサテライト不安定性(MSI-H)、低レベル(MSI-L)、安定性(MSS)の3つに大別 される。MSI-H腫瘍は免疫原性であり免疫チェックポイント阻害剤が有効であるが、MSI-L腫瘍の特徴を検討した報告は少なく、臨床上MSSと同等に扱われている。本研究では、本邦でも増加しつつある欧米型食道がんである食道胃接合部腺癌363症例とTCGAデータを用いて、MSI-L腫瘍はMSSと比して、高いindel変異数と腫瘍内CD8+リンパ球の高浸潤状態であることから免疫原性腫瘍であり、MSI-H腫瘍と同様にリンパ節転移頻度が低く、予後良好な一群であることを明らかにした。ただし、MSI-L腫瘍の免疫回避機構としてPD-1/PD-L1の関与はごく部分的であり、今後の新たな免疫治療開発が期待できる分子亜型であると考えられた。Immunogenic characteristics of low-level microsatellite instability (MSI-L) in  マイクロサテライトとは、主にゲノムの非翻訳領域における50回程度までのDNAモチーフの繰り返し配列領域を指す。マイクロサテライト不安定性(Microsatellite instability; MSI)腫瘍では、ミスマッチ修復(Mismatch repair; MMR)タンパクの異常により発がんし、ゲノム上に高頻度で遺伝子欠失や挿入を来し、特にマイクロサテライト領域の短縮や伸長という形で検出される。 MSI検査は複数のマイクロサテライト領域(マーカー)のPCRを用いたフラグメント解析がゴールドスタンダードであり、MSI-high(MSI-H)、MSI-low(MSI-L)およびmicrosatellite stable(MSS)の3つに分類される1)。このうち、MSI-H腫瘍はMMRタンパクの異常を来している腫瘍で、がんesophagogastric junction adenocarcinoma41低レベルマイクロサテライト不安定性の発がん機構の解明と免疫治療バイオマーカーの創出

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