臨床薬理の進歩 No.43
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群に限定しても認められた。 薬剤使用歴のない統合失調症患者における脳機能的接続の変化に関して、これまでにも多数の報告があるが、結果は一定でなく、内側前頭前野・後部帯状皮質8)・運動感覚ネットワーク9)・上側頭回4)の脳機能的接続の低下や、前部帯状皮質10)・後部帯状皮質8)の脳機能的接続の上昇に関する報告、デフォルトモードネットワークの脳機能的接続に変化がないとする報告11)がある。本研究では、抗精神病薬治療中の統合失調症患者における脳機能的接続の変化を全脳で調査したところ、健康成人群との有意な差は認められなかった。今回の結果は先行研究の結果と矛盾しないものであるが、特定の脳領域に関心を限定すれば、有意な結果が得られた可能性もあると考えられる。 うつ病の重症度が、デフォルトモードネットワーク、小脳、視床、島、前部帯状皮質と関連していることが、rs-fMRIのメタ解析により報告されている12)。本研究では、大うつ病性障害において、主に視床に関連した脳機能的接続の増加が示された。こうした結果は、先行研究に矛盾しないものである。しかし、視床に関連した脳機能的接続の増加が、大うつ病性障害の病態生理を表すものであるか、薬剤による影響であるかは、本研究の結果からは明らかでない。 統合失調症群における抗精神病薬投与量と脳機能的接続との関連を調べたが、有意な関連が見出されなかった。初回エピソード統合失調症において、リスペリドンの効果判定に、rs-fMRIが有用であったとの報告はあるが4)、抗精神病薬投与量と脳機能的接続の関連を示した研究は知りうる限りない。統合失調症は慢性に経過し進行しうる疾患であり、現在の薬剤による影響のほか、慢性経過による影響、薬剤による累積の影響も少なからず考えられるため、抗精神病薬投与量と脳機能的接続との間の関連が示されなかったと考えられる。また近年汎用されている非定型抗精神病薬については、ドパミンD2受容体遮断作用のほか、セロトニン5-HT2A受容体等さまざまな受容体の遮断作用も有しているため、抗精神病薬投与量と薬理学的な変化が比例しないことも、ネガティブスタディとなった一因と考えられる。 本研究では、大うつ病性障害において、抗うつ薬投与量と広範囲の脳機能的接続との正の相関を見出した。また抗うつ薬投与量と脳機能的接続との関連は、寛解群では認められなかったが、非寛解群では認められた。この結果は2通りの可能性を示唆する。第一には、抗うつ薬が広範囲の脳機能的接続を強めている可能性である。さまざまなネットワークの脳機能的接続が抗うつ薬の効果を予測するという報告があるが13)、推察される可能性と矛盾しない。また抗うつ薬は主にセロトニン作用を増強させるが、セロトニンはデフォルトモードネットワークの増強と関連するとの報告もあり14)、本研究はこうした報告と方向性が一致する。一方、第二の可能性として、大うつ病性障害の病態として脳機能的接続の上昇が基盤にあり、重症であるほど脳機能的接続が強くなるという説も考えられる。抗うつ薬が脳機能的接続を減少させるとの報告3)とは矛盾しないが、薬剤投与歴のない大うつ病性障害の患者では脳機能的接続の上昇および低下が部位によって異なるため15)、大うつ病性障害が広範囲の脳機能的接続の上昇を基盤としているという説は、可能性が低いと考えられる。 大うつ病性障害非寛解群においては、症状が重症であるほど、抗うつ薬を少なく内服していた。これを説明する一部の理由としては、治療抵抗性うつ病の場合、気分安定薬や非定型抗精神病薬による補充療法あるいは抗うつ薬からの置換が行われる場合があることが、挙げられるかもしれない。しかし、本研究の大うつ病性障害の非寛解群において、抗精神病薬投与量とうつ重症度あるいは抗うつ薬投与量との有意な関連はなく(データは非掲載)、重症度が高い大うつ病性障害において、抗うつ薬が少ない代わりに、抗精神病薬が多く使われるとまでは言えない。したがって、重症度が高い大うつ病性障害の患者は、抗うつ薬投与量が少ないということは、本研究で示された抗うつ薬投与量-脳機能30

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