臨床薬理の進歩 No.43
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*1 OKADA NAOHIRO 岡田 直大*1 はじめに要   旨東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構後の、臨床症状改善効果と脳機能変化を調査した研究は報告されているが1〜4)、こうした薬理作用と脳機能変化を疾患横断的にかつ包括的に調査した研究は知りうる限りない。また、薬効を予測するバイオマーカー開発は近年進められており、脳機能の測定を利用した技術開発も報告されているが5)、未だに臨床現場での実用化には至っていない。また、脳機能測定を利用した疾患横断的な薬効予測の試みも、知りうる限りない。 磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging; MRI)は医療現場で広く用いられている機器であり、脳の情報を測定できる他の検査と比べて、その空間解像度が高い。MRI安静時脳機能画像(resting-state functional MRI; rs-fMRI)は、安静時における血行動態の揺らぎを計測し、その脳部位間の時間的一致度、すなわち脳機能的接続を抽出・計算Key words:統合失調症、大うつ病性障害、抗精神病薬、抗うつ薬、脳機能的接続 抗精神病薬や抗うつ薬等の向精神薬は、マクロレベルの脳ネットワークの機能変化を介して、精神症状の改善に 寄与すると考えられるが、薬理作用と脳機能変化を疾患横断的にかつ包括的に調査した研究は知りうる限りなく、薬効を予測する脳機能バイオマーカーは実用化されていない。本研究では、脳機能的接続の特徴を疾患横断的に探索した上で、統合失調症と大うつ病性障害における脳機能的接続と向精神薬との関連を調査した。統合失調症群においては、抗精神病薬と脳機能的接続との間に、有意な相関は認められなかった。一方、大うつ病性障害群に おいては、抗うつ薬投与量と広範囲の脳機能的接続との正の相関を見出した。またこの結果は、対象を非寛解群に限定しても認められた。本研究結果は、抗うつ薬の治療効果の脳機能基盤を示唆するものであり、抗うつ薬の効果 予測・測定の技術発展に貢献するものと考えられる。25The association between medications and brain functional connectivity  統合失調症、気分障害等の精神疾患の病態生理メカニズムの一つとして、シナプス間隙における神経伝達物質のアンバランスが知られている。ドパミン受容体拮抗薬に代表される抗精神病薬(統合失調症治療薬)や選択的セロトニン再取り込み阻害薬に代表される抗うつ薬(うつ病治療薬)は、精神疾患患者に生じている神経伝達物質のアンバランスを調整することにより、精神症状の改善が得られると考えられている。さらには、分子・細胞といったミクロレベルで説明される薬理学的メカニズムと、臨床的に観察される精神症状改善との関連には、マクロレベルの脳ネットワークの機能変化を介していると推測される。これまでには、単一の精神疾患に対してあるいは単一の薬剤投与in schizophrenia and major depressive disorder統合失調症および大うつ病性障害における薬剤と脳機能的接続との関連

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