臨床薬理の進歩 No.43
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考  察試験開胸のみで終了した。A群では38例が、B群では40例が食道切除・再建が可能であり、A群で2例が咽頭喉頭食道切除を施行した。2期分割手術をA群2例、B群1例で施行した。 Grade2以上の全合併症発生はA群55%、B群59%で両群同等であった(p=0.824)。全体では、肺炎27%、反回神経麻痺15%、縫合不全11%に発生した。両群で比較すると、B群で肺炎発生頻度が高かったが、有意差には至らなかった(18% vs 37%、p=0.080)。縫合不全の発生頻度は同等であった(13% vs 10%、p=0.738)。その他の合併症の発生頻度は同等であった。術後在院死亡は両群でなかった。病理学的評価 病理学的検索結果を表3に示す。CSが施行できた患者の中で、治癒切除できたのはA群で38例(96%)、B群で38例(93%)で、両群同等であった(p=0.370)。初期治療から含めた全患者を対象としても、治癒切除できた割合は両群同等であった(78% vs 76%、p=1.000)。病理学的検索では、原発巣grade3が得られた症例はA群で有意に高かった(40% vs 17%、p=0.028)。病理学的にリンパ節転移陰性であった患者の割合は同等であったが、pN2以上(リンパ節転移が高度)であった割合は有意にB群で高かった(10% vs 29%、p=0.049)。最終的に原発巣もリンパ節転移も陰性であった(pT0N0M0)の割合は、有意にA群で高かった(28% vs 10%、p=0.049)。 この前向きランダム化比較試験は、T4b食道がん患者を対象に、その後のCSを前提として、DCF化学療法で開始するほうが化学放射線療法で開始するよりも優れているかどうかを評価する第Ⅱ相試験として計画した。今回の検討では、治療効果と有害反応の観点から両群を評価した。両群間で初期および2次治療後の治癒切除率に有意差はなかった。さらに、原発腫瘍およびリンパ節転移の病理学的治療効果は、DCF化学療法開始よりも化学放射線療法開始のほうが高かった。また、有害反応はDCF化学療法のほうが、血液毒性、非血液毒性ともに発生頻度が高かった。本研究は、T4b食道癌に対するCSを念頭においた導入療法における化学放射線療法と化学療法を比較した初めての前向きランダム化比較試験である。 本研究の結果、両群同等の治癒切除率が示された。臨床試験計画時点で、初期治療後の治癒切除率は化学放射線療法開始群で高くなるが、2次治療まで進んだのちは治癒切除率はDCF化学療法開始群で高くなると想定していた。同じくT4b食道癌を対象したCSを前提とした化学放射線療法とDCF療法を比較した過去の後ろ向き研究では、DCF化学療法開始のグループの治癒切除率は74%であったのに対し、化学放射線療法開始のグループでは42%であった。しかし、今回の研究では、両群ともに治癒切除率76%で非常に高いものであった。今回の研究で化学放射線療法開始のグループで高い治癒切除率が得られた理由の1つとして考えられることは、瘻孔形成率が低かったことである。後ろ向き研究では、導入治療中の食道瘻形成は、化学放射線療法開始で8%、DCF化学療法開始で4%発生し、統計的に有意な差が認められた。しかし、今回の研究では、瘻孔形成は両群ともに4%で非常に低かった。化学放射線療法開始の群で瘻孔形成が低かった理由は不明であるが、放射線の照射方法が関係している可能性が示唆された。 本試験の結果は、食道原発巣の病理学的効果については、DCF化学療法開始群よりも化学放射線療法開始群のほうが良好な結果であった。この結果は我々の予測と合致していた。我々の過去の後ろ向きな検討では、化学放射線療法開始で行ったほうが食道原発巣の臨床効果も高く、食道原発巣の病理学的な効果も高かった3,4)。石川らの報告によると、30例のT4b食道癌患者に対し5-FU/シスプラチン併用の化学放射線療法50 Gyを施行し、60%の治癒切除が得られ、28%に病理学的な完全奏効が得られたとしている5)。また、矢野らの報告では、50例のT4b食道癌患者に対し同じく40-60 Gyの化学14

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