臨床薬理の進歩 No.43
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図6 肺動脈中膜3D培養モデル作製のシェーマ図内膜中膜正常肺動脈肺動脈中膜肥厚の試験管内でのモデル化に成功肺動脈中膜(血小板由来増殖因子血管内腔肺動脈中膜肥厚を血小板由来増殖因子病態の進行肺動脈中膜肥厚などが関与)血管内腔狭窄抑制する薬剤添加PAH肺動脈していく必要がある。さらに、イマチニブを3D培養モデルに添加すると厚みが減少し、PASMCの増殖抑制とアポトーシスが認められた。これは、イマチニブ治療によってPAHが改善されることを示す実験的および臨床的な過去の報告と一致している8,11)。現時点では、有害事象や高い中断率のため、実臨床でPAHにイマチニブを使用することは困難であると考えられているが、PDGFシグナル伝達経路を標的とする他の戦略を立てるという可能性は残されている。例えば、PAHの進行に関与するPDGFシグナルの下流のエフェクターを特定する試みにより、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼとホスホリパーゼC-γが標的となりうることが示されている12)。PAHにおけるPDGF経路を安全かつ効果的に標的とするためには、このような方策を用いた研究が必要である。 さらに、この3D培養モデルでは組織の厚さを測定できるという点を利用して、候補薬剤の中膜肥厚抑制能を評価できないかと考えた。PDGFにより引き起こされた中膜肥厚に対するボセンタン、MRE-269、およびタダラフィルの効果を検証することで、我々のモデルの有用性を示した。検討した薬剤は、現在のPAH治療で標的とされている3つの主要なシグナル伝達経路のそれぞれを代表するものである。その結果、3剤すべてが、3D培養モデルにおけるPDGFシグナルによる中膜肥厚を改善することが明らかになった。さらに、減厚に伴う増殖マーカー発現の減少と、アポトーシス誘導厚みが増加の3層すべてに影響を与えるが、なかでも中膜の変化は常に観察される。PAH患者の肺動脈中膜は、同口径の正常肺動脈よりも肥厚している(図6)。肺動脈中膜肥厚は、PAHの病態生理において中心的な役割を果たしていることから、PAHにおける有効な治療標的であると考えられている。しかし、中膜肥厚のin vitroモデルが存在しないため、肺動脈中膜肥厚抑制能に基づいた薬剤スクリーニングはこれまで不可能であった。今回作製したPAH肺動脈中膜3Dモデルは、PAH患者由来PASMCを用いて肺動脈をモデル化するに際し、3D培養技術を適用した。また、肺動脈中膜を3Dでモデル化したことにより、3D培養モデルの厚さの変化を評価することで、様々な実験条件の影響を解析することが可能となった。 PDGFシグナルは、現在PAHで臨床的に使用可能な薬剤の標的とされている3つの主要な経路とは別の、PAHの病態生理において重要な経路として注目されている。これは、PDGFシグナルが増殖促進作用に加えて、血管平滑筋細胞の細胞肥大を誘導し、細胞遊走を促進するためであるが、これらの作用はすべて肺動脈中膜肥厚に寄与する可能性がある6)。実際、我々の3D培養モデルを用いると、PDGF-BBによって引き起こされる中膜肥厚のプロセスを再現することができた。この厚みの増加は、PDGF-BBによるPASMC増殖によることは確認できたが、この3D培養モデルにおけるPASMCの肥大と遊走の関与については今後評価167

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