臨床薬理の進歩 No.43
183/238

内膜中膜肺動脈中膜血管内腔肺動脈中膜肥厚を抑制する薬剤血小板由来増殖因子添加病態の進行(血小板由来増殖因子などが関与)肺動脈中膜肥厚血管内腔狭窄厚みが増加図6 肺動脈中膜3D培養モデル作製のシェーマ図正常肺動脈肺動脈中膜肥厚の試験管内でのモデル化に成功PAH肺動脈していく必要がある。さらに、イマチニブを 3D培養モデルに添加すると厚みが減少し、PASMCの増殖抑制とアポトーシスが認められた。これは、イマチニブ治療によって PAH が改善されることを示す実験的および臨床的な過去の報告と一致している 8,11)。現時点では、有害事象や高い中断率のため、実臨床で PAH にイマチニブを使用することは困難であると考えられているが、PDGF シグナル伝達経路を標的とする他の戦略を立てるという可能性は残されている。例えば、PAH の進行に関与する PDGF シグナルの下流のエフェクターを特定する試みにより、ホスファチジルイノシトール-3- キナーゼとホスホリパーゼ C-γが標的となりうることが示されている 12)。PAH における PDGF経路を安全かつ効果的に標的とするためには、このような方策を用いた研究が必要である。 さらに、この 3D 培養モデルでは組織の厚さを測定できるという点を利用して、候補薬剤の中膜肥厚抑制能を評価できないかと考えた。PDGF により引き起こされた中膜肥厚に対するボセンタン、MRE-269、およびタダラフィルの効果を検証することで、我々のモデルの有用性を示した。検討した薬剤は、現在の PAH 治療で標的とされている3 つの主要なシグナル伝達経路のそれぞれを代表するものである。その結果、3 剤すべてが、3D 培養モデルにおける PDGF シグナルによる中膜肥厚を改善することが明らかになった。さらに、減厚に伴う増殖マーカー発現の減少と、アポトーシス誘導肺高血圧症に対する新規治療薬開発に資する三次元培養モデルの開発の 3 層すべてに影響を与えるが、なかでも中膜の確 認 で き た が、 こ の 3D 培 養 モ デ ル に お け る変化は常に観察される。PAH 患者の肺動脈中膜は、同口径の正常肺動脈よりも肥厚している(図 6)。肺動脈中膜肥厚は、PAH の病態生理において中心的な役割を果たしていることから、PAH における有効な治療標的であると考えられている。しかし、中膜肥厚の in vitro モデルが存在しないため、肺動脈中膜肥厚抑制能に基づいた薬剤スクリーニングはこれまで不可能であった。今回作製した PAH 肺動脈中膜 3D モデルは、PAH 患者由来 PASMC を用いて肺動脈をモデル化するに際し、3D 培養技術を適用した。また、肺動脈中膜を 3D でモデル化したことにより、3D 培養モデルの厚さの変化を評価することで、様々な実験条件の影響を解析することが可能となった。 PDGF シグナルは、現在 PAH で臨床的に使用可能な薬剤の標的とされている 3 つの主要な経路とは別の、PAH の病態生理において重要な経路として注目されている。これは、PDGF シグナルが増殖促進作用に加えて、血管平滑筋細胞の細胞肥大を誘導し、細胞遊走を促進するためであるが、これらの作用はすべて肺動脈中膜肥厚に寄与する可能性がある 6)。実際、我々の 3D 培養モデルを用いると、PDGF-BB によって引き起こされる中膜肥厚のプロセスを再現することができた。この厚みの増加は、PDGF-BB による PASMC 増殖によることはPASMC の肥大と遊走の関与については今後評価167

元のページ  ../index.html#183

このブックを見る