* 1 OGAWA AIKO 小川 愛子*1 はじめに要 旨 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺小動脈内腔が狭窄・閉塞するために肺動脈圧が上昇し、右心不全に至る 難治性疾患である。PAH の病態悪化の主因は、肺動脈平滑筋細胞の過剰増殖による中膜肥厚である。病態解明と 新規治療薬開発のためには、細胞増殖と中膜肥厚のメカニズムを解明する必要がある。しかし、中膜肥厚を 再現した in vitro モデルが存在しないために、これまでその実現が困難であった。そこで、三次元細胞培養技術を 応用し、PAH 患者由来肺動脈平滑筋細胞を用いて、肺動脈中膜肥厚を模倣した in vitro モデルを開発した。血小板 由来成長因子(PDGF)を添加することにより、この肺動脈中膜の三次元培養モデルの厚みが増加した。さらに、PDGF 受容体阻害剤イマチニブや PAH 治療薬を添加すると中膜肥厚が抑制された。肺動脈中膜肥厚に対する 各種薬物の効果判定に用いることができるこのモデルは、PAH の病態解明のみならず、治療薬候補の探索への 応用が期待される。 肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)は、肺血管のリモデリングにより肺小動脈の狭窄や閉塞が生じる結果、肺血管抵抗が増大し、肺動脈圧が上昇し、最終的に右心不全に至る難治性疾患であり、指定難病に認定されている。PAH の病態形成に関わる 3 つの主要な経路に介入する、肺動脈に特異的な血管拡張剤が多数開発されたブリセンタン/マシテンタン、プロスタサイクリン経路を標的としたベラプロスト/エポプロステノール/トレプロスチニル/イロプロスト/セレキシパグ、一酸化窒素経路を標的としたシルデナフィル/タダラフィル/リオシグアト)。しかしながら、依然 3 年生存率は 60%と予後不良であり、(エンドセリン経路を標的としたボセンタン/アン新たな治療薬の開発が急務である。 PAH の肺血管リモデリングの主因は、肺動脈平滑筋細胞(pulmonary arterial smooth muscle cells: PASMC)の過剰な増殖による血管壁肥厚であると考えられている 1)。また、PASMC のアポトーシス耐性も指摘されている。したがって、PASMC の過剰増殖を引き起こすメカニズムを解明し、PAH の病態の理解を深めることが治療薬開発の上で最も重要である。このためには、臨床病態を適切に反映した妥当な PAH モデルが必要である。これまでにPAH の実験動物モデルとして、慢性低酸素またはモノクロタリン傷害モデルが報告されている 2,3)。しかし、ヒト PAH の病理組織学的特徴の一部は、これらの動物モデルでは忠実に再現できていない。例えば、肺細動脈における内皮細胞増殖や不可逆的な中膜の線維化、plexiform lesion(叢状病変)Key words:肺高血圧症、肺動脈平滑筋細胞、疾患モデル、三次元培養、PDGF シグナル独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 臨床研究部 分子病態研究室159肺高血圧症に対する新規治療薬開発に資する三次元培養モデルの開発Fabrication of 3D in vitro model of vascular medial thickening in pulmonary arterial hypertension
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