臨床薬理の進歩 No.43
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であり、切除不能例ではLDであれば放射線化学療法、EDであれば化学療法が標準治療となる。小細胞肺癌は、非小細胞肺癌と比較して進行が早く、緩和療法のみでは生存期間中央値はLDが3ヶ月、EDが1.5-2ヶ月と予後不良である。 小細胞肺癌のうち、5-10%が診断時に間質性肺炎(IP)を合併し、非合併例と比較して予後不良である。IP合併例においては、LDでも放射線治療は行えず、ED同様に化学療法単独で治療を行う。IP合併例に対する化学療法を行う上で、最も危険な合併症はIPの急性増悪である。化学療法による既存のIPの増悪率は5-20%と報告されており、致死率は30-50%と高い。さらに、IPの中でも、特発性肺線維症(IPF)合併例は特に化学療法に伴う急性増悪のリスクが高いと考えられており、CT上でIPFの特徴的な画像所見であるusual interstitial pneumonia(UIP)パターンを示す症例のほうが、non-UIPパターンを呈する症例に比べて、化学療法に伴う急性増悪を起こす頻度が高く、また、急性増悪による治療関連死も多いと報告されている1)。そのため、IP合併例に化学療法を行う際には、いかに急性増悪を起こさずに化学療法をすすめるかが最重要であり、リスクの低い薬剤選択が前提となる。一方で、小細胞肺癌は、進行非小細胞肺癌と比較しても、緩和療法のみで治療をした場合の予後は極めて不良であり、また、化学療法の奏効割合も高いことから、リスクを負って化学療法を行うべき状況も多い。多くの治験・臨床試験において、IP合併例は除外されており、また、IPを合併した小細胞肺癌を対象とした前向き試験も殆ど無いため、有効かつ安全な治療開発が必要である。小細胞肺癌のキードラッグとIP増悪のリスク 小細胞肺癌のキードラッグの1つであるイリノテカンは、本邦で行われた単剤療法の前向き試験において4-18%で薬剤性IPを発症したため、IP又は肺線維症のある患者への投与は禁忌と記載されている。また、アムルビシンは、本邦で行われた非小細胞肺癌患者61例を対象とした開発時の第Ⅱ相臨床試験において、既存のIPの増悪が3例、新規の発現が1例、計4例が報告され、そのうち2例はIPが原因となり死亡に至った。この結果をうけて、胸部単純X線写真で明らかであり臨床症状のあるIP又は肺線維症を合併している患者には、アムルビシンの投与は禁忌と記載されている。このため、IPを合併した小細胞肺癌では、ただでさえ少ない小細胞肺癌の治療選択肢がさらに限定され、比較的安全性が示されている薬剤はプラチナ製剤とエトポシドしかないのが現状である。IPを合併した小細胞肺癌の過去の臨床試験 IPを合併した小細胞肺癌を対象とした前向き試験は、未治療の17例を対象に、カルボプラチン + エトポシドを投与したパイロット試験が1つあるのみである2)。主要評価項目である急性増悪の発症率は5.9%、副次的評価項目である奏効率が88.2%、無増悪生存期間の中央値が5.3ヶ月、全生存期間の中央値が10.6ヶ月であった。また、国立がん研究センター東病院でIP合併小細胞肺癌に対してプラチナ製剤+エトポシドを投与した52例の後ろ向き研究では、一次化学療法中の急性増悪発症率は2%のみであった3)。さらに、びまん性肺疾患に関する調査研究班の調査では、シスプラチン+エトポシドと、カルボプラチン+エトポシドの治療関連急性増悪の頻度は、それぞれ10.5%、3.7%であった4)。一方で、よりハイリスクと思われるIPFを合併した症例のみの後方視的検討では、プラチナ製剤+エトポシドであっても、24-27%と高率に急性増悪を発症した1)。IPFを合併した小細胞肺癌を対象とした前向き試験はこれまで無いため、有効かつ安全な治療開発が必要である。IP合併肺癌に関するステートメント IPを合併した肺癌の薬物療法は、エビデンスとなる無作為化比較対照試験が乏しく、肺癌診療ガイドライン内で標準治療は示されていない。日本呼吸器学会の腫瘍学術部会とびまん性肺疾患学術部会が合同で発行した間質性肺炎合併肺癌に関2

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