臨床薬理の進歩 No.43
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考  察免疫チェックポイント阻害剤における新規コンパニオン診断薬の開発エクソソーム共通抗原 CD9 などに対する抗体をアクセプタービーズに結合させ、さらにがん細胞が分泌するエクソソームの表面に存在すると考えられるがん特異抗原に対する抗体をビオチン化修飾し、ストレプトアビジンが結合したドナービーズに結合させる。CD9 とがん特異抗原の双方を表面に持っているエクソソームにこれら 2 種のビーズが近付いた際に発せられる光を検出することにより、がん由来するエクソソームを高感度に定量することが可能となった。すでに、大腸がん由来エクソソームに特異的に存在する CD147 を用い、早期大腸がん患者末梢血において CD9 陽性 CD147陽性のエクソソームが検出され、このエクソソームが新たな大腸がんの早期診断のマーカーになることを報告しており、ExoScreen 法の体液診断における臨床応用が期待されていた。本研究のねらいの 1 つとして、エクソソームタンパク検出においてこのExoScreen 法を用いて、より確実性の高い臨床応用性のあるコンパニオン診断薬を開発する点にある。エクソソームに発現する免疫チェックポイント分子は、腫瘍免疫応答を制御し、さらに免疫チェックポイント阻害剤の奏効性に関与する可能性がある。以上から、ExoScreen 法を用いたエクソソームのコンパニオン診断は、新しい免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーを探索する上で革新的で臨床応用の可能性の高い技術である。今後、抽出されたエクソソームタンパク質候補のさらなる解析を進め、細胞株や PDX 肺がんモデルを用いて機能評価を行う予定である。 また血液中マイクロ RNA に関して、昨今特に早期がん診断における国内の大規模プロジェクトが行われ、わずか 1 滴の血液から 13 種類のがんを判別できる技術が実用化されようとしている。本研究から血液中マイクロ RNA を用いた検討において、さらなる validation 試験が必要であるものの、ニボルマブに関する非常に性能の高い効果予測能を有するということが判明した。血液中マイクロ RNA の多くがエクソソームに内包されていることを考えると、エクソソーム内の様々な内包物を解析することは、度 90.0% であり(図 4)、精度は上昇したがさらなコ ン ト ロ ー ル に 関 し て は 特 許 申 請 の た め 公 表結果、3 つのマイクロ RNA(miR-A、miR-B、miR-C)を用いることにより AUC 0.784、感度 58.0%、特異る診断能の改善が必要であった。そこで最終的にLeave One Out および内在性コントロールを使用したモデル構築により、非常に高い診断能 AUC 0.996 を得ることができた(モデル式および内在性せず)(図 5)。以上から血液中マイクロ RNA は、肺がん患者の免疫チェックポイント阻害剤の効果予測コンパニオン診断薬の可能性がある。 本研究では、非小細胞肺がんの血清サンプル解析による検証を元に、1)免疫チェックポイント阻害剤の効果予測エクソソームタンパク質バイオマーカーの同定、2)血液中マイクロ RNA バイオマーカーの同定、の 2 点を施行し、腫瘍免疫応答を反映するがんエクソソーム迅速診断の基盤構築、およびコンパニオン診断薬の臨床応用を目指すものである。 背景として、2018 年に Guo らは、悪性黒色腫患者の血清由来エクソソーム上に発現する PD-L1 を発見し、エクソソーム PD-L1 が抗 PD-1 抗体の効果予測バイオマーカーになることを世界で初めて報告した 4)。他にも頭頸部がん 7)と脳腫瘍 8)の患者血清におけるエクソソーム PD-L1 が報告されているが、これらは超遠心法によるエクソソームの回収により PD-L1 を検出しており、バイオマーカーとしての可能性は極めて高いものの、臨床応用が難しい知見であり、未だエクソソーム研究の技術的課題が多く存在する。共同研究者である落谷らは、従来法では 1 日かかるエクソソーム検出を、およそ1.5時間で検出することができ、また検出に必要な血液量もわずか 5μL という簡便な方法であるExoScreen 法を開発した。本方法は、680 nm の励起光により飛び出す一重項酸素の最大飛距離が 200 nm で、それがエクソソームの最大直径にほぼ一致することを利用した技術である。ExoScreen 法では、145

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