臨床薬理の進歩 No.43
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**IDH2 WTDMSOIDH2 mutDMSOIDH2 mutmIDH2i表1 IDH2遺伝子変異TF-1細胞の代謝阻害剤スクリーニング増殖促進Normalized growth vs DMSO >2薬剤名U-73122RVT-501増殖阻害Normalized growth vs DMSO <0.5薬剤名ObatoclaxPemetrexedPralatrexateGMX1778FK866GanetespibAlvespimycinCladribineBEZ235スクリーニングによって抽出された細胞増殖を促進または抑制する薬剤名とその阻害経路を示す。阻害経路PhospholipasePhosphodiesterase阻害経路BCL2FolateFolateNAD+enzyme NAMPTNAD+enzyme NAMPTHSPHSPAdenosine deaminaseAutophagyIDH2変異は脂質代謝適応を介してアポトーシス耐性を誘導する PLCは細胞膜を構成する脂質二重層よりジアシルグリセロールの切り出しを介して細胞内アラキドン酸濃度の調節に関与する酵素であり、その活性低下により細胞内アラキドン酸濃度の低下をきたすことが予想される。上記3群の細胞における細胞内アラキドン酸濃度をGC-MSを用いて測定したところ、IDH2変異株においてはIDH2野生株と比較して細胞内アラキドン酸濃度は有意に低下しており、この変化は変異型IDH2阻害剤投与によって促進または抑制する薬剤が抽出されたが(表1)、その中でIP代謝経路に関与するホスホリパーゼC(PLC)の阻害剤であるU-73122が細胞増殖を促進することが示された。この結果はIDH2野生株および変異株細胞を用いた培養系で再現性が確認され、さらにPLC活性剤を添加することによりIDH2変異株が示していた変異型IDH2阻害剤に対する薬剤耐性が解消することも明らかになった。これらの結果はIDH2変異細胞ではオンコメタボライト非依存的にPLC活性が低下していることを示している。も改善しないことが明らかとなった(図3)。さらに細胞内アラキドン酸濃度の上昇によりアポトーシスが誘導されるという過去の報告12,13)に基づきアポトーシスの解析を行ったところ、IDH2変異株はIDH2野生株と比較して有意にアポトーシスが低下しており、このアポトーシス耐性は変異型IDH2阻害剤の投与によっても改善しないことが認められた(図4)。IDH2変異AML細胞のRNAシークエンス解析 IDH2野生株および変異株細胞の遺伝子発現をRNAシークエンス解析により比較した。GO解析ではPLC関連の遺伝子発現がIDH2変異株で低下している一方、抗アポトーシス関連の遺伝子発現がIDH2変異株で上昇していることが明らかとなった(図5)。これらの結果は上記細胞モデルで認められたIDH2変異細胞におけるPLC活性低下を介した脂質代謝適応によるアポトーシス耐性メカニズムを支持している。アラキドン酸代謝阻害剤併用による変異型IDH2阻害剤耐性の克服 最後に上記の結果に基づきIDH2変異細胞に図3 IDH2遺伝子変異TF-1細胞の細胞内アラキドン酸濃度データは平均±標準偏差で示す(n=3)。2群間の比較はt検定で行った。*p<0.05。127Arachidonic acid ratio1.21.00.80.60.40.20

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