臨床薬理の進歩 No.43
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*1 MORISHIMA TATSUYA *2 TAKAHASHI KOICHI *3 CHIN DESMOND WAI LOON シンガポール遺伝子研究所*4 TOKUNAGA KENJI *5 MATSUOKA MASAO *6 SUDA TOSHIO *7 TAKIZAWA HITOSHI はじめに要   旨 イソクエン酸脱水素酵素(IDH)をコードするIDH1、IDH2遺伝子の変異は、成人急性骨髄性白血病(AML)患者のそれぞれ約7%、8%に認められる1)。IDHはイソクエン酸をαケトグルタル酸に変換する酵素であり、IDH1は主に細胞質に、IDH2はミトコンドリア内に存在し、TCA回路の一部を担っている。このIDH遺伝子に変異が入るとその酵素活性が変化し、αケトグルタル酸を腫瘍特異熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞ストレス研究室、熊本大学国際先端医学研究機構 造血幹細胞工学寄附講座テキサス大学MDアンダーソンがんセンター熊本大学生命科学研究部 血液・膠原病・感染症内科学         同   上熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞制御研究室、シンガポール国立大学 がん科学研究所熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞ストレス研究室的代謝産物(オンコメタボライト)であるD-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)に変換するようになる。IDH遺伝子変異AMLの病態はこの変異型酵素が産生するD2HGがDNAおよびヒストンの脱メチル化酵素を競合的に阻害し、エピジェネティックな変化を誘導することで結果として細胞分化を阻害することが原因であるとされている2)。 IDH2変異AMLに対する分子標的療法としてオンコメタボライトの酵素活性を阻害する変異型IDH2阻害剤が開発され3,4)、臨床応用が始まってKey words:IDH遺伝子変異、急性骨髄性白血病、薬剤耐性、脂質代謝、ドラッグ・リポジショニング Isocitrate dehydrogenase (IDH)遺伝子変異をもつ白血病は変異型IDHにより産生されるオンコメタボライトが腫瘍化の原因とされ、変異型IDH阻害剤が開発されているが、不応例や耐性獲得例も報告されている。このことはオンコメタボライト非依存性の腫瘍生存・増殖経路の存在を強く示唆しており、これを標的とした治療の開発は本疾患の予後改善に貢献するものと思われる。 我々は変異型IDH2阻害剤耐性IDH2変異白血病細胞モデルを用いた研究によりIDH2変異白血病細胞では オンコメタボライト非依存性に脂質代謝適応が起こり、アポトーシス耐性となっていることを明らかにした。 さらにアラキドン酸代謝に作用する抗炎症薬の併用により薬剤耐性IDH2変異白血病細胞を細胞死に誘導できることを示した。 これらの結果は抗炎症薬のドラッグ・リポジショニングにより白血病の薬剤耐性を克服できる可能性を示唆している。124Drug resistant mechanism via lipid metabolism adaptation in acute myeloid leukemia with IDH2 gene mutation森嶋 達也*1 高橋 康一*2 Chin Desmond Wai Loon*3徳永 賢治*4 松岡 雅雄*5 須田 年生*6 滝澤 仁*7IDH2変異急性骨髄性白血病における脂質代謝適応を介した薬剤耐性メカニズム

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