* 1 MORISHIMA TATSUYA * 2 TAKAHASHI KOICHI * 3 CHIN DESMOND WAI LOON シンガポール遺伝子研究所* 4 TOKUNAGA KENJI * 5 MATSUOKA MASAO * 6 SUDA TOSHIO * 7 TAKIZAWA HITOSHI 森嶋 達也*1 高橋 康一*2 Chin Desmond Wai Loon*3徳永 賢治*4 松岡 雅雄*5 須田 年生*6 滝澤 仁*7はじめに要 旨的代謝産物(オンコメタボライト)である D-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)に変換するようになる。IDH 遺伝子変異 AML の病態はこの変異型酵素が産生する D2HG が DNA およびヒストンの脱メチル化酵素を競合的に阻害し、エピジェネティックな変化を誘導することで結果として細胞分化を阻害することが原因であるとされている 2)。 IDH2 変異 AML に対する分子標的療法としてオンコメタボライトの酵素活性を阻害する変異型IDH2 阻害剤が開発され 3,4)、臨床応用が始まって Isocitrate dehydrogenase (IDH)遺伝子変異をもつ白血病は変異型 IDH により産生されるオンコメタボライトが腫瘍化の原因とされ、変異型 IDH 阻害剤が開発されているが、不応例や耐性獲得例も報告されている。このことはオンコメタボライト非依存性の腫瘍生存・増殖経路の存在を強く示唆しており、これを標的とした治療の開発は本疾患の予後改善に貢献するものと思われる。 我々は変異型 IDH2 阻害剤耐性 IDH2 変異白血病細胞モデルを用いた研究により IDH2 変異白血病細胞では オンコメタボライト非依存性に脂質代謝適応が起こり、アポトーシス耐性となっていることを明らかにした。 さらにアラキドン酸代謝に作用する抗炎症薬の併用により薬剤耐性 IDH2 変異白血病細胞を細胞死に誘導できることを示した。 これらの結果は抗炎症薬のドラッグ・リポジショニングにより白血病の薬剤耐性を克服できる可能性を示唆している。Key words:IDH 遺伝子変異、急性骨髄性白血病、薬剤耐性、脂質代謝、ドラッグ・リポジショニング熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞ストレス研究室、熊本大学国際先端医学研究機構 造血幹細胞工学寄附講座テキサス大学 MD アンダーソンがんセンター熊本大学生命科学研究部 血液・膠原病・感染症内科学 同 上熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞制御研究室、シンガポール国立大学 がん科学研究所熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞ストレス研究室124 イソクエン酸脱水素酵素(IDH)をコードするIDH1、IDH2 遺伝子の変異は、成人急性骨髄性白血病(AML)患者のそれぞれ約 7%、8% に認められる 1)。IDH はイソクエン酸をαケトグルタル酸に変換する酵素であり、IDH1 は主に細胞質に、IDH2 はミトコンドリア内に存在し、TCA 回路の一部を担っている。この IDH 遺伝子に変異が入るとその酵素活性が変化し、αケトグルタル酸を腫瘍特異IDH2 変異急性骨髄性白血病における脂質代謝適応を介した薬剤耐性メカニズムDrug resistant mechanism via lipid metabolism adaptation in acute myeloid leukemia with IDH2 gene mutation
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