臨床薬理の進歩 No.43
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腫瘍組織正常組織考  察:200 μmレクチンX二重染色与できる。 これまでの抗体開発においても、糖タンパク質の認識や構造の認識の違いにより、得られた抗体の結合強度が変化することが知られている。腫瘍特異的な糖タンパク質を同定することができれば、これまで偶然に得られた抗体の腫瘍特異的な特性を利用するのではなく、意図的に腫瘍特異的な糖タンパク質を標的とした抗体作製が可能となり、今後の抗体医薬や CAR-T 療法の汎用性を押し広げるものとなる。さらに、正常細胞と腫瘍細胞上の特定腫瘍抗原における糖鎖修飾の違いに着目して、腫瘍細胞上の標的抗原の糖鎖修飾を認識するレクチンを CAR-T 細胞に搭載することが可能となれば、CAR-T 療法の汎用性が広がる。こうした、レクチンを利用した治療法はこれまでに報告がなく、学術的独自性及び創造性を兼ね備えている。また腫瘍抗原に対する抗体と腫瘍抗原上の糖鎖を認 識 す る レ ク チ ン と を 組 み 合 わ せ た 次 世 代 型CAR-T 細胞システムの構築は、様々な抗原に対する抗体や他の有望なレクチンの使用も可能にすると考えられることから、汎用性は高い。将来的には、個々の糖タンパク質を標的とした個別化 CAR-T療法の先駆けになることが期待される。我々はさらなる糖鎖 / レクチン開発を進めるため、個別のレクチン解析を行うのではなく、96 種類のレクチンを一度に解析できるシステム(レクチンアレイ法)PIGR: 赤色レクチンX:茶色図12 膵臓がん組織におけるPIGRと糖鎖の二重染色解析腫瘍細胞の糖鎖構造に着目した新規がん免疫療法の開発4) PIGR 発現を認める腫瘍細胞株を共焦点レーザーも同様に、腫瘍細胞上の PIGR に対してレクチンX が認識する糖鎖が発現していることを確認した(図 13)。このことは、レクチンが糖鎖の違いを認識して、正常細胞と腫瘍細胞とを区別できる可能性を意味しており、これを利用することで新たな腫瘍細胞の識別方法を確立できると考えられた。顕微鏡下にて観察し、PIGR タンパクとレクチンX が認識する糖鎖との関係を 3 次元的に解析して、レクチン X が認識する糖鎖が PIGR 上に発現していることを確認した(図 14)。 糖鎖解析は細胞株を用いて行われるのが一般的であるが、本研究で示した患者腫瘍組織検体の正常細胞と腫瘍細胞とに分けた糖鎖解析はこれまでに報告はなく、患者検体を用いることにより、臨床情報を的確に反映した結果が得られる可能性が高く、今後さらなる発展が期待される。本研究のように正常細胞と腫瘍細胞における特定腫瘍抗原上の糖鎖の違いが証明できれば、CAR-T 療法における標的抗原の腫瘍特異性が高くなり、副作用が軽減されることから臨床応用の発展に繋がる。また他のがん特異的治療(低分子医薬等)の発展にも寄105PIGR

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