臨床薬理の進歩 No.42
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*1 TANAKA KAZUKI *2 INUI NAOKI 田中 和樹*1 乾 直輝*2はじめに要   旨 化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)は、癌薬物療法に伴い高頻度で出現し患者が苦痛を感じる有害事象であり、そのコントロールは重要である。制吐剤の導入によりCINVコントロールは改善しているが、特に遅発期や悪心の管理が不十分である。オランザピンは、CINVに関与する複数の神経伝達物質受容体を介したシグナル伝達を阻害することが知られている。カルボプラチンを投与される患者を対象に、オランザピン、ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬アプレピタント、5-ヒドロキシトリプタミン-3(5-HT3)受容体拮抗薬、デキサメタゾンによる4剤制吐療法の有効性と安全性を評価した。主要評価項目である完全奏効割合は全期間93.9%と良好であった。傾眠や便秘を多く認めたが、ほとんどが軽症であった。オランザピンを含む4剤制吐療法は、カルボプラチンによるCINVに対して有望な治療法と考えられた。 浜松医科大学第2内科浜松医科大学第2内科、浜松医科大学臨床薬理学講座Cancer Network; NCCN)等において制吐に関するガイドラインが作成され4〜6)、本邦でも日本癌治療学会編の制吐薬適正使用ガイドラインが作成され、これらガイドラインを基に制吐療法が行われている2,7)。 CINVは抗癌剤の種類、投与量、投与経路によって、その発現頻度および発現時期が異なる。抗癌剤は嘔吐リスクに応じて「高度催吐性リスク」(Highly Emetogenic Chemotherapy; HEC)、「中等度催吐性リスク」(Moderately Emetogenic Chemotherapy; MEC)、「軽度催吐性リスク」「最小度催吐性リスク」に分類され2,4,8)、これらの分類に基づいた予防的な制吐療法が推奨されている。肺癌治療で頻用されるシスプラチンは HECに、カルボプラチンはMECに分類されている。 オランザピンは、複数の神経伝達物質受容体を介したシグナル伝達を阻害する多元受容体標的Key words:制吐療法、カルボプラチン、肺癌、化学療法誘発性悪心・嘔吐、オランザピンEstablishment of olanzapine combination antiemetic therapy for nausea and vomiting associated with carboplatin 化学療法誘発性悪心・嘔吐(Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting; CINV)は、悪性腫瘍に対する癌薬物療法に伴い高頻度で出現する非血液学的毒性の一つで、薬物療法実施における大きな問題となっている1,2)。CINVは患者にとって非常に不快な有害事象であり、生活の質(Quality of Life; QOL)に影響を与えるとともに、栄養状態の悪化や電解質異常を起こし、重篤な有害事象のリスクを高め、結果として薬物療法の有効性を損なう場合がある3)。したがってCINVの制御は治療の継続と成功のために重要であり、海外では国際癌支持療法学会(Multinational Association of Supportive Care in Cancer; MASCC)や米国国立包括癌ネットワーク(National Comprehensive 85カルボプラチンに伴う悪心・嘔吐に対するオランザピン併用制吐療法の確立

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