臨床薬理の進歩 No.42
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結  論 過去の2つの研究では、OLPを受けた慢性腰痛患者は、通常治療のみを受けた患者と比較して、3週後の疼痛強度と障害スコアが中程度以上の効果で有意に減少したことが報告されている3,4)。これらの研究は慢性腰痛患者にOLPが有効であるエビデンスを示唆しているが、2研究ともに通常治療群においてアウトカム測定項目に改善変化が認められておらず、この点に関しては本研究との相違点となるため議論が必要である。 慢性疼痛は、「文脈効果」と呼ばれる様々な身体的あるいは、心理・社会的要因の影響を受けていることが知られており、臨床上の文脈効果は、主にプラセボ反応と自然経過への回帰現象が想定されている11)。この点、本研究において通常のTAU治療群では、3週目において痛みの障害度とTUG値が有意に改善しており、これは通常治療であれ「治療の枠組み」という文脈効果が示唆されるため、OLPがその文脈効果を上回る利点があるかどうか判断するために、妥当な結果と読み取れる。 近年、腰痛に対する「通常治療」とは何かが論じられている。腰痛の治療には多くの標準的な選択肢があるが、より良いと考えられる治療モダリティや薬剤は確立されていない。Bleaseらは、積極的な治療法であるOLPと比較した場合、コントロールは理想的には構造的に同等の状態であるべきであると報告している12)。この問題を解決するために我々は、OLPカプセルの投与有無のみを違いとした、同じ医師による同じ治療構造を確保した研究を行った。このような治療形態や相互作用の質に関連する構造的な治療条件の調整により、先行研究とは異なる治療効果が観察された可能性もある。 また、上記の問題とは別に、OLPへの反応性は人種や文化によって異なる場合がある。最近の研究では、黒人アフリカ系アメリカ人と比較して、白人アメリカ人はより大きな条件付け効果、安堵期待の強化、プラセボ効果を報告していることが示唆されている5)。アフリカ系アメリカ人、アジア人、ヒスパニック系は非ヒスパニック系白人よりも高い疼痛感受性を示すことや、非白人は白人よりも長期的な慢性疼痛を発症しやすいことが報告されており、OLPへの反応性における人種の違いが、本研究と2つの先行研究の結果の違いの背景にあるのかもしれない。 一方、臨床的治療価値について議論した報告によると、臨床的価値のある痛みの改善は主観的疼痛強度10点満点の11段階評価で2点以上であるべきとされている13)。つまり統計学的有意差と臨床上の有効性は区別して考えるべきであるという主張である。10点満点中0.7点のスコア改善は治療価値の懐疑性を示唆するものであり、実臨床における適応についてはさらなる議論が必要であろう。一方、本研究では、OLP+TAU治療群で統計学的有意な治療効果は示さかったものの、OLPカプセル内服者の約4割が本治療に少なくとも“ある程度満足している”ことが示された。これらの結果は、高齢者におけるポリファーマシーの問題や、患者満足度という観点からみれば、薬理学的に副作用のないOLPカプセルが日本人の慢性腰痛患者の一部にとって治療の選択肢となり得る可能性を示唆している。 本研究にはいくつかのLimitationがある。第一に、すべての時点でアウトカムの評価が主任研究者によって実施されており、盲検化されていないことである。第二に、単一の医療施設の少数の患者のみに実施されていることである。本研究では2群間のアウトカムに統計学的有意差がなかったが、先行研究と比較して効果量が小さかった可能性もある。このような2群間の小さな差を検出するためにはより多い症例数が必要となり、この点についてはさらなる調査が必要である。 本研究では、過去の報告と同等の有効性の仮定のもとOLPが日本の慢性疼痛患者に有効であるかどうかを検討した。その結果、OLP+TAU群、TAU群の両群ともに12週目における測定アウトカムはベースラインに比較し統計学的有意な改善が認められたもの、統計学的有意な群間差は認められ69

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