臨床薬理の進歩 No.42
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*1 IKEMOTO TATSUNORI 愛知医科大学 整形外科*2 UENO TAKEFUMI *3 WAKAO NORIMITSU *4 HIRASAWA ATSUHIKO 愛知医科大学 整形外科*5 ARAI KENICHI *6 DEIE MASATAKA 池本 竜則*1  上野 雄文*2 若尾 典充*3 平澤 敦彦*4 新井 健一*5 出家 正隆*6はじめに要   旨 慢性腰痛は、痛みが治癒予想期間(通常、3か月以上)を超えて持続または再発すると定義され、世界的に最も一般的な筋骨格系の問題であり、日常活動制限、欠勤、障害を伴う世界的健康障害であると報告されている1)。 薬理学的に有効な成分を含まないプラセボ薬は、臨床現場で使用されているが、新薬の臨床試験でのみ使用されるのが一般的であり、薬理学的に不活性であることを知らない患者への投与は欺瞞的であるとされているため、治療薬としては非倫理的であると考えられている。一方最近では、患者がプラセボ薬であることを認識していても、いくつかの臨床症 本研究の目的は、日本人の慢性腰痛患者を対象にオープンラベルプラセボ(OLP)の有用性を検証すること である。慢性腰痛患者52例を通常治療(Treatment as usual:TAU)群とOLP+TAU群に無作為に割り付けた。TAU群では、心理教育および運動指導を行い、必要に応じて薬物療法を併用した。OLP+TAU群の参加者は、TAUに加え朝夕にOLP 2カプセルを内服した。アウトカムは、初診時および、3週目と12週目に、腰痛強度(NRS)および機能障害尺度(RMDQ)、およびTimed-Up-and-Go(TUG)テストを用いて評価した。結果、全参加者が 3週の追跡調査を完了したが、4例の患者(各群2例)が3週以降の追跡調査から除外された。各アウトカムは、3週目において有意な群間差は認めなかった。また12週目において、有意な時間経過効果は認められたが群間 効果や時間経過と群間の相互作用は認められなかった。結論として、日本人の慢性腰痛患者を対象としたOLP+TAUは、TAUと比較した統計学的優越性は認めなられなかった。肥後精神医療センター 精神科国立長寿医療センター 整形外科愛知医科大学 痛みセンター愛知医科大学 整形外科状に対して治療効果を示すオープンラベルプラセボ(Open label placebo:OLP)の有効性が報告されている2)。慢性腰痛に関しては、通常治療(Treatment as usual:TAU)にOLPを3週追加した際に、TAUのみの場合と比較して、痛み強度および、痛みに関連した生活障害の有意な改善が得られることが報告されている3,4)。これらの知見は、OLPが慢性腰痛の新しい治療法となりうる可能性を示唆している。 しかしながら最近の研究では、プラセボの効果には潜在的な人種差が存在することが示唆されており5)、慢性腰痛へのOLPの使用が一般的に受け入れられるようにするためには、我が国でも有効かどうかの検証が必要である。Key words:慢性腰痛、オープンラベルプラセボ、文脈効果、人種差63日本の慢性腰痛患者に対するオープンラベルプラセボ効果の検証A study of the effect of open-label placebo on Japanese patients with chronic low back pain

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