臨床薬理の進歩 No.42
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*1 KOMURA KAZUMASA *2 UCHIMOTO TAIZO *3 TSUJINO TAKUYA *4 TANIGUCHI KOHEI *5 INAMOTO TERUO *6 AZUMA HARUHITO 小村 和正*1  内本 泰三*2 辻野 拓也*3 谷口 高平*4 稲元 輝生*5 東 治人*6はじめに要   旨 がんは、正常細胞が様々な細胞ストレスにより起こる遺伝子変異を蓄積することにより発生する。これらの遺伝子変異のうち、一部はdriver mutationとして働き、細胞を無秩序に増殖させる出発点となる。このような変異の蓄積により、細胞は腫瘍細胞へと変化していくが、核内で起こっているこの変異を修復できずに核酸が正常からどんどんかけ離れた状態となっていく状態をゲノム目的 DNA複製ストレス、ダメージ修復に関わるパスウェイにおいて、複製ストレスマーカーとしてのKDM5D欠失の有用性を明らかにするとともに、解析結果より得られるKDM5Dのエピジェネティックファクターとしての分子生物学的な役割を明らかにすることにより、新規治療の開発を目指す。方法 前立腺がん細胞株によるin vitro、in vivo実験系を構築した。臨床検体による解析では、倫理委員会に承認を受けたうえで、解析をおこなった。結果 臨床検体でのFluorescence In Situ Hybridization(FISH)解析では約11%において、KDM5D locusの欠失を認めており、そのうちのほとんどがGleason’s grade 5の高異型度のがんであった。前立腺がんにおいて悪性度の高い腫瘍サブタイプの1つとしてKDM5Dの欠失を特徴とする腫瘍サブタイプが存在していることが考えられた。ChIPseq、RNAseqによる網羅的解析により、KDM5D欠失がDNA複製ストレスを惹起しATRシグナルへの依存性を高めていることから、ATR inhibitorによって細胞特異的に治療効果をもたらすことができる可能性が示唆された。結論 KDM5D 欠失の検出によりATR inhibitorの治療効果を予測できる可能性が示唆された。大阪医科大学泌尿生殖・発達医学講座 泌尿器科学教室          同   上          同   上大阪医科大学研究支援センター TR部門大阪医科大学泌尿生殖・発達医学講座 泌尿器科学教室          同   上不安定性genomic instabilityと呼んでいる。 我々は前立腺がん研究において、リシン特異的ヒストン脱メチル化酵素であるlysine-specific demethylase 5D(KDM5D)の欠失が、抗がん剤ドセタキセル耐性を引き起こすことを報告している1)。前立腺がんは男性において最もよくみられるがんの1つであり、最終的には去勢抵抗性前立腺がん(Castration-Resistant Prostate Cancer: CRPC)へと形質変化を起こすことにより進行する。我々はKDM5Dの発現レベルが初期がんよりもCRPCでKey words:DNAダメージ、DNA複製ストレス、KDM5D、BUB1B、BUBR1Development of novel therapeutic approach targeting DNA replication stress and DNA damage response34DNA複製ストレス、DNAダメージ修復をターゲットとした新規治療法の確立

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