臨床薬理の進歩 No.42
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考  察結  語謝  辞担癌マウスモデルにおけるDLL3を標的とした in vivo NIR-PIT 背部に1個の異種移植片を持つマウスにおいて、IR700の蛍光は、近赤外光照射後に減少した。対照群、近赤外光単独群、およびRova-IR700単独群の腫瘍発光は、腫瘍増殖のため漸増を示した。対照的に、NIR-PIT群のルシフェラーゼ活性はDay 2まで徐々に減少した(図4A)。腫瘍体積はDay 3、Day 7およびDay 10において対照群に対しNIR-PIT群で有意な縮小を認めた(図4B)。 IVIS spectrum CTで発光定量を行い、初回近赤外光照射前の発光との比を比較した。腫瘍の発光は初回近赤外光照射1日後(b)と2日後(c)に有意な発光の低下を認めた(図4D)。 抗DLL3抗体とNIR-PITを用い、SCLCに対する新機序の治療法を前臨床で検討した。 自験例でのDLL3のヒト検体での発現は従来の報告と同様であった。抗DLL3抗体であるRovalpituzumabとIR700は適切に合成され、Rova-IR700が作製された。Rova-IR700と近赤外光を用いたNIR-PITはin vitroにおいてDLL3を発現した標的細胞のみを障害し、非標的細胞は障害しなかった。In vivoの実験では皮下異種移植片をもつマウスモデルにおいて、NIR-PIT群は対照群に対し有意な腫瘍増大抑制効果を示した。 非小細胞肺癌に対する分子標的治療はこの20年で劇的に進歩し、様々な選択肢があるのに対し、SCLCでは抗PD-L1抗体のみであり、新規治療法に対する要望は強い。 本研究で実施したNIR-PITは既存のいずれの治療法とも異なる機序で癌細胞を障害し、選択性も高いため副作用が軽微であること、既存のいかなる治療とも併用しうることが期待される。胸腔内に適切に近赤外光を照射するデバイスが現時点ではないことや、進展型SCLCに対する治療戦略は今後も検討が必要である。 DLL3を標的としたNIR-PITはSCLCに対する新たな治療になりうる。ヒトに応用するためには光源の開発を中心にさらなる検討が必要である。本結果は、The LancetとCELL誌の姉妹誌であるEbioMedicine誌に掲載された6)。 本研究をご支援いただきました「公益財団法人臨床薬理研究振興財団」の皆様方に深謝申し上げます。9

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